第130話:手紙を受け取ったんだが
オズワルド王国から追放された勇者の一人、ファブリス・ジョーキン。
剣の勇者として絶対の自信を持ち、偉そうにしていた彼の姿はもうない。
「ああ……俺の人生もうお終いだ……」
王都から約二千キロ離れたリーシェル公国に送られたファブリス。
住まいを与えられ、生活に不自由はなかったものの、行動の自由はない。常に監視がついているという状況だ。
勇者としての力を誇示する機会は皆無。今はただの政略の駒でしかない。
「どうして俺がこんな目に……くそ」
ドンッ!
薄暗い部屋の中、ベッドを叩くファブリス。
ベッド、テーブル、椅子、棚……諸々の家具は揃えられているが、床にはゴミが散乱している。
ここ一ヶ月間で生活はかなり荒んでいた。
「あいつのせいだ……賢者……マツサキ・ユーキ。意味わかんねえジョブのくせによ!」
ドガッ!
怒りに任せ、椅子を蹴飛ばす。脚が折れてしまったが、激昂したファブリスは特に気にしなかった。
「あいつをぶっ殺して復讐……できねえよ! あんな強いの……どうしろってんだよ……」
はぁ。
深いため息を吐くファブリス。
ユーキへの怒りと同時に、弱い自分へ襲いかかる苛立ちと情けなさ。
やり場のない感情をぶつける場所はなく、ファブリスは悶々とした日々を過ごしていた。
そんなある日のことだった。
チリンチリン。
「ああ……もうこんな時間か」
正午。
家にいるファブリスが逃げ出していないか確認するため、いつもこの時間は役人のチェックがある。
家の外には常に監視が立っているのだが、念には念を入れている。ファブリスはうんざりしつつも、いつも素直に応じていた。
ガチャリと扉を開けるファブリス。
「心配しなくても逃げねえよ……って、お前誰だ?」
眉を顰め、訝しげな目を向けるファブリス。
いつもの役人とは明らかに違う、全身黒ずくめの男。
——闇の司祭。と形容するのがしっくりくる見た目だった。
ふと外に目を向けると、監視の役人はスヤスヤと眠っている。ファブリスは、目の前にいるこいつが眠らせたのだろうと直感した。
ファブリスの監視役に抜擢された役人たちは皆それなりに実力がある。物音一つなく無力化させたとなれば、ただものではない。
「ルーラ様からファブリス殿への手紙を預かっている。読んだら燃やせ。答えは後日聞かせてもらおう」
内ポケットから封書を取り出し、ファブリスに突き出す男。
「ルーラが……? 勇者同士の連絡は禁止のはずだが……」
ルーラ・コシャス。紺碧の魔法剣を持つ魔法の勇者だ。
大らかなファブリスとは対極な性格で、彼はやたらと細かくいちいち慎重な立ち回りを求めていた記憶が蘇る。
そんなルーラが課せられた掟を大胆に破り、手紙を寄越したことにファブリスは興味を持った。
「全て手紙に書いてある。受け取れ」
「ああ」
ファブリスは突き出された手紙を受け取り、部屋に戻った。
封を開いて手紙の内容を確認する。
「こ、これは……」
手紙の内容は、今のファブリスが求めていたことだった。
沈んでいたファブリスの心に一筋の明かりが差し込んだ感覚。不気味に広角が上り、笑いが込み上げてくる。
「はは……ははははは! これだ、これだよこれ」
手紙を読んだ後、約束通り火をつけるファブリス。
後日に闇の司祭が改めて答えを聞きに来ると説明されていたが、ファブリスは既に気持ちを固めたのだった。
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