第120話:招かれたんだが②
◇
城の階段を上り、記憶を頼りに目標の場所に向かう。上の階のどこかの部屋の窓から手を出していたはずだ。
「確か、この辺だったよな」
おそらくここだろうという部屋の前に来た。
立っていても仕方がないので、ノックをしようと右手を上げたその時だった。
ガチャ。
勝手に扉が内に開き、部屋の中がわずかに隙間から見える。
とは言っても、部屋の中は真っ暗で中がどうなっているのかはまったくわからなかった。
この時間なら部屋の中に光が差し込むはずだが、そうならないということは、遮光カーテンで締め切っているのだろう。
「え……?」
さっきと同じ白く細い手が部屋と扉の隙間からにゅっと飛び出し、俺の手を掴む。
俺は、引き込まれるように暗い部屋の中に吸い込まれた。
ガチャン。カチッ。
俺が部屋の中に入ると、扉が閉まり、鍵がかけられたような音がした。
自動で閉まったわけではなく、俺を引き込んだ何者かが閉じたようだ。
もちろん脱出することも可能だったが、あえてそうせず様子をみることにした。
ステータスを確認するまでもなく、自然と伝わってくる魔力の大きさを確認すれば白い手の女よりも俺の方が強いことは明らかだったからだ。そして何より、相手からは俺をどうにかしようというような危険は感じなかった。
一瞬の間があり、女の声が聞こえてきた。
「ふふ……来てしまったのね。我が城の深淵……いえ、禁忌の間へ!」
なんだこいつ……。
というのが第一印象だった。
声質的にはかなり若い。アレリアやミーシャとそう変わらないくらいの年齢に感じた。
「……」
俺は無言で扉の近くにある室内灯のスイッチを押す。
パッと明かりがつき、部屋の全貌と俺を引き込んだ女の姿が明らかになる。
「ひゃっ!」
透き通るようなツインテールの青い髪。大きな青い瞳。身長はやや低めで華奢なわりに目を引く大きな胸。
黒を基調としたゴスロリファッション。
顔からはアレリア、ミーシャよりもほんの少し大人な印象を受けるが、全体的な印象としては実年齢よりも幼く見えた。
いきなり明かりをつけられるとは思っていなかったのか、少女は少し動揺した様子で俺を見ている。
「それで、何の用だ? アリス」
名前を呼ぶと、ビクッとするアリス。
「ど、どうして我が真名を!?」
「一家で会ったことがないのはリリスだけだったからな」
絶対の確信があったわけではないが、一目見たときにピンときた。
アレリア、ミーシャ、リリスさん、ユリウスさん。四人も家族を見れば、アリスも家族であることは容易に想像できる。
確か、帝国に来て初日にアレリアとミーシャがもう一人の姉の話をしていたのを聞いた覚えがある。
思い切って名前を出してみたが、この反応を見ると当たりだったようだ。
「ふ、ふーん。やるじゃない」
「それで、用件は?」
再度尋ねると、アリスは少し困ったような顔をした。
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