第119話:招かれたんだが①

 スキルであれば獲得した時に奇妙な声が聞こえてくるのだが、『熟練度』にはそのようなものはなかった。


 少なくとも王国にいる間はこの項目はなかったはずだ。


 帝国に来てからやったことと言えば……様々あるが、関係ありそうなこととしては、毎朝のユリウスさんへの指導くらいのもの。


 確かにユリウスさんに指導する中で自分の中で未熟な部分に気がつけたし、未熟な部分を埋めるために自主練やイメージトレーニングに励んだ。


 その結果として得られた新たなスキル? なのだろうか。


 ——分からない。


 結局は比較・観察してどのようにすれば熟練度が変化するのか、法則を見つけるまで確かなことは分かりようがない。


 とはいえ、以前に比べて強くなったことだけは事実なのだろう。


「今すぐ試すなら、『索敵』くらいか」


 クリティカルや魔力効率を確かめるには場所が悪いので、周囲に意識を集中することで『索敵』の効果を確かめる。


 確かに、前までと比べてよりはっきりと魔力の流れが見える気がする。


 どう例えるのが適切なのか分からないが、テレビのアナログ放送と地デジ放送くらいには違うように感じられた。


 『熟練度』というものは普通のスキルのように能動的に使うものではなく、常に発動し続けるようだ。


 SMOにはなかったが、他のネトゲでは採用されているシステムによく似ているように感じる。


「ん?」


 以前よりはっきりした像が見えるようになったため、誰かが上から俺の方を覗いているような姿が見えた。


 俺を見ていた人影に目を向けると、一瞬でパッと隠れてしまい、顔は確認できなかった。

「……」

 実は、ここ数日ふとした時に誰かに見られているような感覚があった。


 この人影がその正体なのかもしれない。


 とはいえ、厳重な警備が敷かれている帝城の中に怪しい人物が紛れ込めるはずもない。


 お客さんである俺が何をしているのか気になってメイドさんが見ていたとかそんなところだろう。


 まあ、放っておけばいいか……と自主練に戻ろうとしたその時だった。


 俺を見ていたであろう人影の手だけがぴょこっと見えた。


 小さく、柔らかな白い女性の手。


 その手は、俺を手招きしているように見えた。


「こっちに来いってことか……?」


 俺はそう捉え、こちらを招く手の元へ行ってみることにした。

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