第121話:アリスがすごいんだが①

 再度尋ねると、アリスは少し困ったような顔をした。


「我が汝を招いた理由は……気まぐれよ。そう、気まぐれ!」


「気まぐれ?」


「魔族を二度も倒して、この国に来てからもすぐ危機を救って……。それに、お父様も、アレリアも、ミーシャもあなたにぞっこんみたいじゃない。そんなの気にならないわけがないわ!」


「つまり噂を聞いて一度会ってみたいと思ったってわけか」


「そう! それ!」


 ビシッと指を差すアリス。


 これのどこが気まぐれなのかよくわからないが、本人的にはそうなのだろう。


「ここに連れてきた理由は分かったが、どうして今なんだ?」


 そう尋ねると、首を傾げるアリス。


 俺の質問の意図が汲み取れていないようなので、補足しておく。


「帝国に来てもう二週間だぞ? その間にいくらでも会う機会はあったと思うんだ。同じ建物の中で過ごしてるんだしな」


 わざわざ朝の修行時間を狙って俺をピンポイントで誘い出さなくても、リビングルームに来るだけで済んだことだ。


 アレリアとミーシャの話では姉妹仲があまり良くないという風な話も聞いていたので、その辺が関係しているのかもしれないが……。


 仮に嫌な質問だったとしても、言いたくないことは言わないだろう。俺が質問を遠慮する必要もない。


「アリスは……あっ、じゃなくて我は、この部屋から出られないの」


 薄々分かっていたが、この面倒臭い中二っぽい言動はキャラ作りなのだろう。いちいち指摘するのも野暮なのでスルーしておく。


「成すべきことを成すまで、この部屋に幽閉される運命にあると天啓があったわ」


 そういえば、アリス以外の皆んなは集まって食事を摂っていたが、アリスだけは食事の時間にメイドさんが部屋まで料理を運んでいたのを見た気がする。


 しかし、この部屋から出られない……か。


「じゃあトイレはどうしてるんだ?」


 部屋の中に廊下を経由せずに行けるトイレは見当たらない。


「え、それは……我はうんちしない」


「へえ。風呂にも入らないのか?」


「お風呂は入るわよ! みんなが上がった後にこっそりね!」


 出れんじゃん……という言葉が出そうになる。


 アリスの話を整理すると、部屋から出られない。出ようと思えば部屋から出られる。


 この矛盾が示す答えは……。


「つまり、引きこもりってやつか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る