第97話:いきなり出てきたんだが①

 ◇


 こうしてしばらく眺めていると、俺たちの前に一台の豪華な荷馬車が止まった。


 どうやら、迎えのようだ。


 荷馬車から一人の男が降りてきた。


 四十代後半くらいの男性。身長は百八十センチくらいあり、壮漢な顔をしているが、どこか優しそうな印象を受ける。


「アレリア! アレリアか!」


「お、お父様……⁉︎」


 どうやら、この男の正体はアレリアの父——つまり、ヴィラーズ帝国の皇帝……ユリウス・ヴィラーズとのことらしい。


「まったく、なんの話もなく出ていきよって……」


「ごめんなさい。でも、思い立ったらいてもたってもいられなくなって……」


「アレリアは昔からそういうところがあるからな。とにかく無事で良かった」


 そんな言葉をかけながら、皇帝はアレリアにハグをした。


「……と、すまない。君がユーキか?」


 無事を確認したことで気分が落ち着いたのか、皇帝は俺たちもいることに気づいたようだ。


「ええ、俺が松崎祐樹です」


 自国の王だったセルベールにはタメ口だった俺だが、アレリアの父ということで自然に丁寧な言葉になってしまう。


「そうか、礼を言う。早速だが……荷馬車に乗ってくれるか?」


「ありがとうございます」


 俺たちはユリウス皇帝の後に続いて、荷馬車に乗り込んだ。


 荷馬車の中は、椅子と机が固定されている他には何もない。


 外からは見えないようにカーテンがかかっていた。


 ちなみに、中には他にも二人乗っており、その二人はアレリアに手を振っていた。


「お母様! それにミーシャまで来てくれたんですね!」


 アレリアの母で、皇后——リリス・ヴィエール。


 アレリアの姉で、第二皇女——ミーシャ・ヴィエール。


 皇族が勢ぞろい。さすがにこの面子は緊張してしまうな……。


「今回は何事もなかったから良かったけれど……アレリア、勝手に出て行っちゃダメよ。ちゃんと言ってくれれば色々とやりようもあったのよ?」


「ご、ごめんなさい……」


「まあまあ、お母様。お父様にも言われたばっかりだと思うし……ね?」


 姉のミーシャがなだめる。


「そうね。今日はこの辺にしておきましょうか」


 リリス皇后は、アレリアと見た目がそっくりの美人だった。


 歳はユリウス皇帝と同じ四十代後半くらいのはずだが、まったくそうは見えない。


 これがいわゆる美魔女というやつだろうか……?


「ユーキ君は何を考えてるの?」


「い、いえ……何も。親子なので当然ですが、アレリアとそっくりだと思いまして」


「あら、よく言われるのよ。ありがとね」


 そんなにジロジロと見ていたわけではないのだが、リリス皇后に俺の視線を気付かれてしまったらしい。


 アレリアとは顔こそ似ているが、この鋭さがあるとまったく印象が変わって見える。


 良い意味で、アレリアはのほほんと鈍いところがあるからな。

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