第63話:扉の鍵がどこにもないんだが

 念のため魔物が飛び出してこないか警戒しながら通路を進んでいく。

 サイドには部屋や窓は全くなく、黄ばんだ白壁のみ。俺たちは誘導されるようにまっすぐ進んでいくしかなかった。


 通路の先には——


「鉄の扉ですね。……うーん。ダメです。開きません」


 アレリアが扉に手を伸ばすが、鍵が閉まっているようで開かないらしい。

 取手の下には、二つの鍵穴があった。


「どこかに鍵があるのかしら」


「うーん、その可能性もなくはないが——」


 ゲーム的感覚だと一つずつ部屋を回って手がかりを集め、最後に鍵を差し込んでやっと扉が開く。それがセオリーで王道的な感じなのだが、あまりに面倒すぎる。


 今から戻って部屋を一つずつ周っていたら日が暮れてしまうだろう。

 っていうか鍵がどこかに隠されている保証もない。


「俺の故郷では、針金を使って鍵をこじ開けるっていう方法があったんだ。それができないか試してみようと思う」


「そんなことができるんですか!?」


「鍵の意味とは……って感じよね」


「初めてやるから上手くできるか保証はできないけどな。やってみるよ」


 いわゆるピッキング。

 素人が初見でやって成功するとは俺も思っていない。

 鍵穴に魔力を流し込んで鍵の構造を把握し、それに合わせて針金を差し込み、鍵を回す。

 これでいけるはずだ。


「っと、その前に」


 まずは、普通に扉を開けるよう試みて、どこで引っかかっているのかおおよその位置を特定する。

 細かな作業になるので、ヒントは多い方が時間の節約になる。


 時間に追われているわけではないのだが、魔物が飛び出してこないとも限らないので、手短に終えられた方が良いことに違いはない。


 スライド式の鋼鉄扉を左に押してみる。


 バキバキ……ミシミシ……と音がする。


 バキッ!


「ん? ……普通に空いたぞ? 鍵なんてかかってたのか?」


 アレリアが全体重をかけて開けようとしていた鋼鉄の扉だったが、普通に押したら開いた。

 開け方は間違っていなかったし、見た感じ本当に鍵で引っかかっていたと思う。


 アレリアは嘘をつくようなやつじゃないし、何か別の要因があったのだろうか。


「今すごい音しましたけど!?」


「ち、力尽くで鋼鉄の扉を開けてしまうなんて……」


 何やら、様子がおかしい。

 そういえばバキバキって変な音がしてたけど、まさかな。


「こんな頑丈そうな鍵が力尽くで壊れるわけないだろ? そんなの壊せるとしたらバケモノだぞ」


「…………はぁもうダメです」


「…………重症ね」


 なんか二人の反応が冷たいんだが……?


 多分本当は最初から鍵が閉まってなんかいなくて、錆びていたか何かだったのだろう。

 やれやれ、まあ勘違いされたままなのは不本意だが、気を取り直して中を探検するとしよう。


 先導して部屋に入った時だった。


 カラン。


 金属部品が床に落ちるような音が反響した。

 ちょうど俺の背後から。


 何事かと思って確認すると——


「あ、鍵穴の部品が落ちてきました!」


 え?

 ってことは——


「もしかして、俺……壊しちゃってた?」


「そうですよ! 言ったじゃないですか!」


「気づくの遅すぎよ!?」


 いくらステータスが高いとはいっても、無自覚で扉壊しちゃうとは思わなかった……。

 いつもは加減していたのだが、アレリアが開かないといっていたので、ついつい力を込めてしまっていたのだ。


「……まあ結果オーライだ。過程はどうあれ、中に入れたんだからな」

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