第64話:壊れた聖剣をゲットしたんだが
広い部屋の中には魔物は潜んでいなかった。
特筆すべき点としては、とりわけ他の部屋よりも頑丈そうに作られているというところだろうか。
ひんやりとした白銀の壁。部屋の端は黒鉄の太い柱で支えられている。
もちろん部屋の中にも何本も柱が植えられている。
他の部屋が潰れてもここだけは絶対に守り抜くぞとばかりの気合いの入れ方だ。
「なんか……ちょっと不思議な雰囲気です」
「教会に似ているかも……? 装飾は控えめみたいだけど」
アレリアとアイナの声が反響する。
確かに、なんとなく安心感はあるな。ゲームのボス部屋みたいな雰囲気がある。
ボス部屋ならクリア報酬が欲しいところだが——
「多分、ここが一番奥の部屋なんだよな。何もなさそうなんだが……」
「ユーキ、あれ、なんでしょうか」
「石像か?」
アレリアが指差すのは、広い部屋の中でも最奥。
そこには大きな石像があった。
とはいえ、石像は部屋のいたるところにあるので驚くことではないと思うのだが。
「違います! その下にある黄金のアレです!」
石像に気を取られてしまうが、その下には確かに何かが隠れていた。
「剣の柄みたいに見えるが……。近くまでいけば分かることか」
遠目からではよくわからないので、近づいてみる。
すると、やはり剣の柄。つまり持ち手の部分だけが顔を出しているという形だった。
「石に埋まっていて抜けません……」
「私もダメ。……っていうかこんなの抜けるの?」
アレリアとアイナが試しに抜こうと試みたが、やはり抜けなかった。
というよりも、ゲームとかでよくある勇者が剣を抜くようなものとは根本的に違う。
石に完全に埋まっていて、抜けるわけがない。
無理やり周りを掘って取り出すことはできるかもしれないが、そんな手間をかけるほどの価値があるのかどうかも不明だ。
下手に手を入れて壊してしまうと、歴史的に貴重なものだった場合に取り返しが付かなくなるし……。
「ユーキに試してみて欲しいです。ほら、ユーキならいける気がします!」
「そうね。ユーキがやってみるべきよ」
「なんで俺……?」
「だってそりゃあ……」
「無自覚で鍵を壊せるならこのくらいできるかなって」
「お前ら俺をなんだと思ってるんだ……? これでも普通の人間なんだぞ?」
「ユーキは賢者だよー。普通の人間じゃないもん」
「おいおい……」
みんなして何を期待しているんだろうか。
誰がやってもダメなものはダメだろう。さっきの扉は簡単に壊れたが、それは老朽化もあったはずだ。
これは完全に埋まっている。抜けるわけがない。
「まあ、ダメもとでやってみるが、変な期待はする……な——」
軽く引っ張ってみると、スルスルっとラーメンを啜るように剣を抜くことができてしまった。
「えっと……ははっ」
「ああああ!!!! またユーキ始まりました!」
「冗談で言っただけなのに!? 嘘でしょ!?」
また俺やっちゃったみたいです……。
「いやでもほんと、さっきのは力も入れてなかったんだが……」
これは本当だ。
扉の件では多少力を入れていた自覚はあるが、これはスルスルと抜けた。最初から刺さっていなかったみたいに。
と言っても二人どころかスイも信じていないようなので、これ以上の弁解はやめておくことにする。
こういうのは日頃の行いが物を言う。信じてもらえるよう悔い改めるとしよう。
「まあ、抜けたとは言っても古いだけあってボロボロだけどな。錆びてるし、刃こぼれもしてる。こんなんじゃ野菜も切れないと思う」
このまま放置するのもどうかと思うので、とりあえずアイテムスロットに収納しておこうとした瞬間。
「ん……?」
黄金の剣を、淡い光が包んだ。
淡い光はどんどん強くなっていき、黄金の光で剣の全体が見えなくなるほどまで光量が強くなっていき——
《『聖剣エクスカリバー』の自動修復に成功しました! 修復率10%》
久しぶりに聞いた無機質な声。
それに驚く間も無く——
「剣が綺麗になってます!」
「これってどう言うことなの……?」
聖剣エクスカリバーとやらは、新品の剣のように綺麗な状態になっていた。
さっきまでの錆や刃こぼれは一切見当たらない。
これなら、魔物を相手にしても余裕で使えそうだ。
魔剣ベルセルクの時にも似たようなことがあった。原因はいまいちわからないが、あの時は鞘から抜いて俺が触れた瞬間だったはず……。
あれ……?
っていうことは、もしかして何か俺が関係してるってことなのか……!?
「さすがはご主人様! これ聖剣だったんだねー」
「聖剣ってなんなんだ?」
「昔、勇者が使ってた武器だよー。魔剣は昔魔王が使ってた武器」
「え、勇者……。ってことはファブリスの武器か。捨てようかな」
「違うよー。あんな偽物の勇者じゃなくて、神話の時代に暴虐の魔王が暴れていた時に戦った本物の勇者のだよ!」
そういえば、武器屋の店主もそんなことを言ってたっけ。
魔王だけじゃなくて勇者もいたということは初耳だったが。
「まだ完全じゃないみたいだけど……きっと強いからご主人様の力になるはずだよー」
「まあ、武器が多いことに越したことはないからな。魔剣とローテーションさせるか」
幸い、重い剣もアイテムスロットがあれば何本持ち歩いても手ブラと変わらない。
ひとまず新しい剣を手に入れたということで試し斬りしたいのだが——
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます