第62話:モンスターハウスが厄介なんだが

 奥へ進むと通路があるので、そこを歩いていく。

 左右には分厚い銀色の壁がいくつも並んでいる。直感ではあるが、普通の会社のオフィスや民家というより、研究所のような印象を受けた。


 見た目は鉄製だが、鉄が使われているかどうかは不明だ。


「開けますか?」


「そうだな。……まあ、何があるか分からないから念のため準備はしておいてくれ」


 アレリアが扉を開こうとする。

 押しても、引いても微動だにしない。


「ユーキ、扉が開きません! もしかして鍵がかかっているのでしょうか?」


「いや……多分違うぞ」


 俺は、アレリアと交代して扉に手を伸ばした。

 押しても引いてもダメなら……スライドしてみる。


 カラカラ……という音ともに、扉が開いた。


「すごい! 開きました!」


「扉っていうのは押すタイプと引くタイプだけじゃなく、スライドするタイプもあるんだ。まあ、あんまり見かけないけどな」


 異世界に来てからはスライド式の扉を見かけたことはなかった。

 文化的な違いなのか、技術的違いなのか不明だが、こういう部分を見てもやはり現代的じゃないと言える。


 俺が先陣を切って部屋の中へと入る。

 すると——


 キィィィィ……!


 と、コウモリ型の魔物が唸った。

 十匹や二十匹という数ではない。数えるのも面倒になるほどの魔物がギラギラと目を光らせている。

 部屋に入るまではいなかったはずだが——


「モンスターハウス型のトラップってところか……やれやれ、厄介だな」


「厄介じゃなさそうに言うのやめてもらっていいですか!?」


「なんかむしろ楽しそうに見えるわ……」


 え? そう見えるのか?

 俺としては本当に厄介だと思ってるんだが——


「結構レベルが高いから経験値が美味そうなんだけど数が多いんだよなー」


 無属性のフレアで、正面から襲いかかってくるコウモリを一掃。

 撃ち漏らした個体を斬撃で適当に処理していく。


「ほら……まだ半分くらい残ってるだろ?」


「この一瞬で半分倒せることが異常ですからね!」


「うーん、でもここからが時間かかるんだよな」


 合体でもしてまとまってくれれば楽なのだが、そこそこ広範囲に小さい魔物が散らばっていると、殲滅するには手間と時間がかかってしまう。


 地道にフレアと斬撃で数を減らし、アイナが孤立した魔物を倒していく——

 およそ五分で部屋にいた魔物を殲滅した。


 フレアで焼き切った数がかなりの数に上るので、死体の数はそれほどでもない。

 っていうかコウモリの見た目なので、よく見るとめちゃくちゃキモい。


 あの数の死体がそのまま残っていたら吐いたかもしれない。

 死んでもなお精神的攻撃を与えてくるって結構すごいな。


「これ何かしら……?」


 あまり広くはない部屋だが、奥には小さな丸テーブルが設置されている。

 アイナは、テーブルの上に置かれた本を指差していた。


「古書みたいだな。……かなり古い」


 長期間保存されていたようで、かなり酸化が進んでいる。

 表紙にもかなりの黄ばみがあった。


 それなりに上質な素材で作られているようで、触ってもボロボロと崩れるようなことはない。


 本をパラパラとめくってみる。


「……なんて書いてあるのかしら」


「読めないです」


 二人とも、本の中身を覗いても内容を理解できないようだった。

 もちろん、俺も何が書かれているのか全く掴めない。


 大陸共通語に少しだけ雰囲気が似ているような気がする。しかし、字体も文法も単語もかなり違っている。

 言語がわからなければ理解のしようがなかった。


「とりあえず保管しておくことにするよ。解読すれば当時の情報が何かわかるかもしれない」


 俺は、アイテムスロットに古書を突っ込んだ。

 この中なら劣化しないし、安全に持ち運ぶことができる。

 王都に帰ったら、得意な者に解読させてみることにしよう。


「そういえば、あと何部屋か同じような扉があったよな。面倒だけど一つずつ周っていくか……」


 ◇


 一部屋につき五分ほどを使って、一つずつ部屋を周った。

 案の定全ての部屋がモンスターハウスになっていて、初っ端から多数の魔物を相手にすることになってしまう。


 魔物の強さ自体は大したことがなく、一般の衛兵でも一対一ならなんとか倒せるレベル。とはいえ、なんかもう帰りたい気分だった。


 全部で似たような部屋が六部屋。

 最後の六部屋目を突破したところだ。


「やっぱりここにもありました! 今度の表紙は黒です」


 アレリアが楽しそうに丸テーブルに置かれた古書を拾い上げて、俺に届けてくれる。


「シリーズ物なのかもな。……今すぐに読めないのが残念だが」


 六冊の古書は、そのどれもが同じような装丁だったが、表紙の色が異なっていた。

 それぞれ、赤・青・黄・緑・灰・黒の六種類。


 劣化からか、色味は薄くなっていた。


 俺は六冊の本が全てアイテムスロットに収納されていることを確認して、部屋を出た。

 まだ通路は先に続いていたはずだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る