第61話:古代遺跡が見つかったんだが

 ◇


「これは酷いな……」


 たった三百キロとはいえ、普通に歩くとかなりの距離があるので、スイに乗って上空から現場に向かっている。

 ほどなくして到着したのだが、上から落下地点全体を見渡すと、平原だった場所は変わり果てていた。


 クレーターのようになっており、一番深い場所で十メートルほど抉れている。


「そういえば、調査って何をやるんでしたっけ」


「ああ、それはな——」


 スイが下降して、着地する。

 俺たちは飛び降り、スイは元の大きさになる。


「ありがとう。いつも悪いな」


 俺は、改めて陸からの目線で大穴を見渡す。


「空から何かが飛来して地震が起こった——までは当局でも把握している。逆にいえば、それ以外の全てが何もわからないという状態だ。『隕石の着地点の状況』『周りの魔物の状況』『他に変わったことがないか』この辺をレポートすればいい。と言っても分かることなんてほとんどないが……」


「念のために土とか持って帰った方が良いかしら」


「それも持って帰ってもいいけど……どちらかと言うと飛来物……隕石の欠片を見つけた方が良いだろうな」


 この世界の科学技術でどこまで意味があるのか不明だが。


「あっ、あの黒い石ですよね。私、取ってきますね!」


 アレリアがそう言って、穴の中に飛び込む。


「いやまだ何があるかわからないから慎重に——」


 と、言ったその時。


「きゃっ1」


 アレリアから叫び声が上がった。

 クレーターの中から突然魔物が出現したのだ。


 今まで見たことのない、骸骨のような見た目をした魔物。

 全長一メートルほどで、インパクトには欠ける。


 なんで魔物が……?


 などと考えている余裕はない。


 俺は、アイテムスロットから魔剣を瞬時に取り出し、アレリアを助けに向かう。

 しかし——


「急に出てきたらびっくりするじゃないですか!」


 アレリアが起こったように剣を振り、骸骨に一閃。

 骸骨の身体がバラバラになった。


 そうか——いつの間にか、この程度なら俺の助けなんて要らなくなってたんだな。

 今のアレリアの行動は注意すべきものだったことに違いないが、自分でどうにかできるという自信の現れだったのかもしれない。


 これからしばらくは、自信を付けさせると同時に大事に至らないようしっかり見守ることが大切そうだ。

 すぐに助けに入ることがいつでも最善ではない。


「今まで見たことのない魔物ね。カルロン平原には何度か来たはずだけど……」


「明らかに、この辺の魔物じゃなさそうだな。ステータス的にも、この辺にいていい魔物じゃない」


 さっきチラッとだけレベルだけだが見えた。

 レベル30。

 この辺の魔物のレベルが5〜10だということを考えると高すぎる。


 しかし名前からは魔族が絡んでいるようではなかった。

 ということは、隕石の影響でなんらかの変化があったということだろうか。


「ちょっとだけ地下を掘ってみようか。できるだけ現状維持したかったが、魔物の危険があるとなれば話は別だ」


 アレリアにクレーターの中心から離れてもらい、俺は剣を横薙ぎに振る。

 斬撃で爆風が起こり、土を攫っていく。


 すると、何か人工的なものが姿を現した。


「扉……でしょうか?」


「壊れてはいるが……あの衝撃でよくバラバラにならなかったもんだな。ちょっと隙間が開いているから、多分この奥に魔物がいるんだろうな」


 しかし不可解なことがある。

 なんというか、この扉がどうも近代的なのだ。鍵穴らしきものがないのだが、壊れた部分を見る限り構造的には鍵がかかる仕組みになっている。電子ロック的なものでもないみたいだから、魔法か何かで施錠する仕組みなのだろう。


 こんな建物を見たことがない。


「他にも魔物がいるとなれば、ちょっと問題がある。アレリアはサクッと倒せたけど、普通の冒険者には厳しいからな……。もし他にも紛れ込んでいるなら、殲滅する他ない」


「この中も調査するってことね」


「秘密基地みたいでワクワクしますね!」


 二人ともノリノリなのはいいんだが、魔物の数によっては王都が壊滅するほどの危険性を孕んでいる。

 だって、魔族が近くにいた雑魚を大量に呼び寄せただけでピンチになっていたのだ。個々が強い魔物が一斉に王都を攻めたらどうなる? という話だ。


「細心の注意を払ってくれ。この先は何があるのかわからない」


 俺は二人を軽く注意し、壊れた扉を開く。

 飛び出してきた魔物が二体。さっきと同じ骸骨の魔物だ。


 軽く剣を振って、二体をまとめて処理した。


「中が暗いな……」


 俺は、念のため雑貨屋で買ってアイテムスロットに収納しておいた『洞窟用光源』を使って、近くを照らした。

 これは名前の通り洞窟探索用のアイテムだ。


 使い切りのアイテムで、一度使うと一時間ほど戦闘に支障がなくなるほどの光量で近くを照らしてくれる。

 手で持つ必要はなく、浮遊して使用者を追尾してくれる。


 ちなみに、本来は手で持たなければいけないアイテムだったが、『錬金術』で合成したことで俺が勝手に便利なアイテムに昇華した。非売品である。


 扉の先は部屋のようになっており、なんとなく生活感があった。自宅のような安心感はないが、会社の事務所に近い感じだ。

 朽ち果てている書類が壁に貼られていたので確認してみると、見たこともない文字だった。


「なんか、不思議な雰囲気ですね」


「見たこともないアイテムがたくさんあるのね……。ここは本当に王国かしら」


 近未来を思わせる洗練されたデザインの家具が並び、レベルの高い施錠技術を持ち、見たことのない文字は使われている。これらのヒントから総合的に考えると——


「古代遺跡……なのかもしれないな」


「古代って、それにしては文明レベルが高すぎないかしら?」


「どのくらい昔なんですか?」


 二人から、すぐにツッコミが入った。

 少しくらいは根拠があるので、それを話してみる。


「古代文明が必ずしも今より劣っているわけじゃない。発展した文明がなんらかの事情で崩壊した可能性もなくはない。そうだな、記録にも残ってないくらい昔だとしたら、数千年以上は経っているだろうな」


「でも、じゃあなんで昔の人はこんな地下を掘って住んでいたのかしら」


「いや、最初から地下にあったわけじゃないと思うぞ。地層って知らないか? 放っておくと土砂や色々なものが堆積して、だんだんと地面は高くなっていく。数千年も経てば地上の高さが変わっていてもおかしくない。この辺を掘り返せば街が出てくるかもかもな」


「ちょっと難しいけれど、確かにそう言われてみると古代遺跡なのかも……」


「そんなことまで分かるユーキって凄いです!」


「まあ、こんなの大したことじゃないが……一通りは調べてみよう。ここで考えるよりは何か手がかりが掴めるはずだ」


 古代遺跡であることは間違い無いのだろう。

 しかし、なぜこれだけ高度な古代文明は衰退し、にもかかわらず人類は今でも生き残っているのか——


 気になることがさらに増えた感じだ。

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