第60話:調査をすることになったんだが
◇
翌日。
朝早くに王城を出発した。
昨日はあの後隕石が地上に落下したようで、揺れを感じた。
異世界では——いや、少なくともこの地域ではと言ったほうが正しいか——地震を経験したことがないらしく、かなりアレリアとアイナは怖がっていた。
二人だけじゃなく、元Aランク冒険者であり、国王でもあるレグルスまでもが動揺していたほどだ。
距離が離れていたおかげか幸い激しい揺れとまではいかなかったので、崩れた建物などはなさそうだ。
ひとまずこちらは安心としても、ちょっと俺には心配事がある。
「昨日はしっかり眠れたか?」
両サイドを歩く二人に声をかけた。
実は、昨晩は『揺れが怖いから』という理由で特別に同じベッドで寝ることを許したのだ。
まあ、許可しなくても勝手に潜り込んでくるのだが、昨日だけは特別だ。怖がっている女の子を放っておくわけにはいかないからな。
「昨日はユーキがなかなか寝かせてくれなくて大変だったわ」
「いや、俺が何かしたみたいな言い方だよな!?」
俺の名誉のために断言しておきたい。俺は何もやっていない。それでも俺はやってない!
三人も一緒に寝るからベッドが狭くて寝つきにくかったってだけのことなのに……。
「昨晩のユーキは激しすぎです……。初めてだったからもうちょっと優しくしてくれても良かったのに」
「頭ポンポンと背中さすっただけだからな! 関係ないやつに聞かれたらヤバいから!」
はあ。……まったく言葉ってのは難しい。
二人とも理解して俺をからかっているからタチが悪い。
こんなの、他人が聞いていたら——
「ゆーひ様ってやっぱひお二人とそういう関係なんへふね!?」
「あ、あんたは……何でここにいるんだ?」
ギルドの受付嬢のお姉さん。
パンを咥えて、息を切らしながら汚いものを見るような目で俺を見ている。
絶対何か勘違いされてる。
もうギルドは開いている時間だし、毎週この時間帯はこの受付嬢がいたはずだ。
パンを高速でムシャムシャと咀嚼してごっくんしてから口を開いた。
「今日は寝坊しました! ってそんなことはどうでもいいのです!」
「よくねーよ!」
「よくないわよ!?」
「よくないです!」
盛大に俺たち三人の声がハモった。
この時間の受付嬢は一人なんだから、今頃ギルドは困ってるぞ……。
こんなところでチンタラと話し合っている場合ではない。
「確かにどうでもよくはありませんね。これは失礼しました。しかし、やっぱり仲間だの面倒を見るのだと言っておきながら、やはりケダモノだったんですね!」
「やれやれ、まったくどこから説明すればいいか……」
「とにかく、これには深いワケがあるんだ。な?」
俺は、アレリアとアイナに目配せした。
事情を簡潔に話せというメッセージだ。
「私、無理やり……されて……」
「私は言うことを聞かないと帝国に帰すぞって言われて仕方なく……です」
「アイナのはベッドが狭いから詰めてくれって言っただけで、アレリアに至っては真っ赤な嘘じゃねえか!?」
ついに際どいセリフを放棄して嘘までつくようになったのかよ!
はあ……。
ため息をつき、頭を抱える。
しかしこの辺で潮時だと思ったのか、タチの悪い冗談は終わりを迎えた。
「まあ、そういう感じね。ユーキはこう見えて堅いし意気地なしなのよ」
「少しは察してくれるといいんですけどね」
「あー、そうだったんですね! てっきりユーキ様がハーレムパーティをしていたのかと……」
するわけないだろ……!
そもそも、二人は俺をそんな目で見ていない。
あくまでも仲間。たまに際どいことを言ってくるが、俺をからかっているだけだ。
「ようやく誤解が解けたようで良かった。……で、何分の遅刻なんだ?」
「あっ」
既に遅刻していたということを忘れていた社会人失格受付嬢が、ぽかんと口を開けた。
「まったく、仕方ないな。走れば、ギルドまで一分くらいか? 抱えていくから、乗ってくれ」
「ええ!? どう頑張ってもあと十分はかかりますよね!」
「俺たちは鍛え方が違うんだ」
「でも、その……男性に……それもユーキ様に抱えられるなんて……」
「何言ってるんだ? 俺が抱えるわけないだろ。アイナとアレリアどっちか選べ」
変なところを触って痴漢とかセクハラとか強制なんちゃらみたいな疑惑がかけられるのは御免被りたい。
事故が起こらないとは限らないし、何事もなかったとしても『なんか触られた気がする』とかで変態扱いされるのは最悪だ。
見えている地雷は避ける。
この世界を生き抜く一つの知恵である。
「え? あー……そう、ですよね……ははっ」
なんかちょっと残念そうだったが、納得してアレリアに抱えられた。
その後、予告通り約一分ほどでギルドに到着した。
「遅れてしまいすみませんでした!」
と、待たせていた冒険者たちに平謝りして、依頼の処理を次々にこなしていく。
この感じだとギルドの支部長辺りに怒られそうだな。反省はしているようだし、あとでちょっと俺から口利きしておくか。
依頼を受ける冒険者たちを一通り捌き終わった。
「そういえば、ユーキ様は大公爵になられたのに冒険者を続けるんですか?」
「まあ、趣味みたいなもんだからな。今日は天災の件が気になって依頼のついでに見に行こうと思ってる」
「ああー、昨日の揺れ凄かったですよね。……何か悪いことの前兆なんじゃないかと思えて怖いです。天災の件については調査依頼をギルドから出せますが……受けますか?」
「え、そんなことができるのか?」
「今朝、レグルス様から天災について調べるようにとギルドへ要請が来ていたようなんです。信頼できる冒険者に依頼してほしいと」
なかなかレグルスも国王らしく働いてくれているじゃないか。
これまでは逐一俺が指示を出していたが、そういえば最近は重大なこと以外あまり相談や確認に来なくなった気がする。
「なるほど、そういうことなら受けさせてもらおう」
「それで場所なんですが——」
「カルロン平原の北西。ここから約三百キロほど離れた辺りだな。行けばわかるだろう」
「さすがユーキ様です……」
「あれだけ派手な音を聞いていれば聞き逃すはずがないからな」
「ユーキは音で場所が分かるのですか……?」
「うん? 正確な距離まではわからないけど、方角とキロ単位までの距離なら分かるのって冒険者なら普通じゃないのか?」
「…………」
「…………」
「…………」
あれ? もしかしてまた変なこと言っちゃったか……?
異世界に転生してから、他の能力と一緒に音がかなりクリアに聞こえるようになったんだが、もしかして、これって普通じゃなかったりするのか……?
「そ、それ普通じゃないですからっ!」
絶句する受付嬢とアイナ。
二人の気持ちを代弁するようにアレリアが呆れ声でツッコミを入れた。
そうか……普通じゃなかったのか……。
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