第59話:星が降って来たみたいなんだが
◇
ポーションの材料を購入し、変装用の衣装を揃え、ランチを食べた後は、商業地区を後にした。
オークションの件でかなり注目を集めてしまったため、何をするにも人目が気になってしまう。
悪いことをしているわけではないので気にしなければいいといえばそうなのだが、自分たちの行動が逐一見られ、記録されていくのはあまり気持ち良いものではないのだ。
夕方。宿屋へ戻った後は、すぐに宿を引き払って王城へ向かった。
大荷物になるかと思ったが、よく考えれば俺にはアイテムスロットがあるので手ぶらで引越し作業を済ませることができた。
王城に着く頃には、もう薄暗い。
「一時的でも王国の王城に住むことになるとは思わなかったわ……」
「まあ、そうだよな。俺のせいで迷惑かけてしまってすまない」
「恐れ多いって意味よ!?」
「そうなの?」
てっきり、もっとあの宿に住んでいたいという意味かと思ったんだが。
「私はユーキと一緒ならどこでもいいです!」
「まあ、そう言ってくれるのは嬉しいが……」
「私だって、ユーキがいればどこでもいいわ! 貧相な安宿でも恐れ多い王城でも、普通の民家でも!」
なんか、そんなこと言われると照れちゃうじゃないか。
まるで俺が二人にモテてるみたいなあり得ない勘違いを起こしそうになる。
やれやれ、自然に男を勘違いさせようとするとは、魔性があるな。気を付けないと……。
「二人の気持ちは嬉しいが、近いうちに家の件はなんとかしようと思う。ひとまず俺に任せてくれ。じゃあ、王城に——うん?」
王城の前まで来て、二人の顔を見るため振り返った時。
視線の上が明るいことに気づいた。
夜空に謎の光。青色? エメラルドグリーン……?
不思議な色の光が空を飾っている。
「どうしたんですか?」
「いや、なんか変な光が浮いてるなと思って。なんかまるで火球みたいな」
「本当ね。……何かしら」
何度も明るくなっては、少し暗くなってを繰返し、バーンっと地鳴り音が反響する。
もしかして、この特徴は……。
「隕石か……?」
俺のこぼした言葉に、
「隕石……?」
「隕石って何ですか?」
二人は隕石を知らないみたいだ。
俺もあまり詳しいわけではないんだが。
「隕石っていうのは、たしか宇宙空間に浮いている個体が惑星に落下してきたもののことだな」
「???」
「余計わからないです!」
ふむ、ちょっと難しい言い方をしてしまったみたいだ。
宇宙とは? 惑星とは? 個体とは? という説明からするのも大変だし……。
「ようするに、空に浮かんだ星が落ちてきたって思えばいい」
「ええ! それって大丈夫なんですか!?」
「落ちてきて怪我したりしたら……」
二人とも、事の重大さに気づいたらしい。
あの隕石はかなり大きい。普通は大気圏で燃え尽きて消滅するものだが、地上まで落下してくるかもしれない。
「その辺は安心して大丈夫だ。軌道を見る限り、スレスレだが……王都には落ちてこないはずだ。エルフの里も避けてる。多少の揺れ幅はあるけど、王都から数百キロ離れた場所に落下するはずだ。人が住む場所まで影響を受けることはない。しばらく魔物の数は減りそうだけどな」
「それならよかったです」
「その隕石が落ちた場所っていうのはどうなるの?」
「基本的には大穴が開くはずだけど……まあ、それは行って見た方が早い。もし地上に落下するようなことがあれば、明日見にいこう」
多分だが、あの高度であの大きさなら上空で燃え尽きることはない。
もう少しで落下するだろう。
王都に落下してこなかったのは幸運以外の何者でもなかった。
日本では隕石の落下被害で多数の死者が出たという話は聞いたことがないが、外国では千人以上が怪我を負った事例も聞いたことがある。
「気にするな……って言っても無理だと思うけど、気にしても仕方がない。文字通り天災だからな。……ひとまず、今日は中に入って休むとしよう」
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