第49話:なぜか勇者と勘違いされてるんだが

 ◇


 罠は全て取り除いたのでエルフの里へと足を進めた。

 門の前に見張りはいない。


 その代わりに、さっき壊したビックリボールは大量に設置されていた。

 100個くらい山積みにされたボールが、何箇所かにまとめられている。


「すごい数……これ全部から魔物が出てくるんでしょうか?」


「さっきと同じ仕様なら壊れて出てこないはずだ。念のために確認はしておくが」


 俺は小石を拾って、山積みのボールの方に投げた。

 反応はない。大丈夫そうだ。


「すごい! 全部壊れてるのね」


「念のためちゃんと割っておいた方が良いとは思うが、ひとまず先に進もう。これだけの魔族がいるとなると心配だしな」


 大量の死体が転がっているなんてことは幸いながらなかった。

 これだけで安心はできないので、事実確認を急がなければならない。


 建物の陰に隠れながら、コソコソと里の中心に向かう。

 入り口以外にも、ビックリボールはいたるところに設置されていた。


 里の中心では、痩せて頬がこけたエルフたちが15体の魔族に囲まれている。顔色もかなり悪い。

 魔族は14体が円を描くように住民を囲んで膝を着き、両手を突き出している。残りの1体は偉そうな態度で見守っている。あれがケルカスか。


 よくよく見ると、囚われた住民の中にはエルフだけじゃなく人間の男の姿もあった。

 あれがエルフの里を牛耳っていた盗賊か。


 魔族と、囚われた住民のステータスを確認する。


「マズいな。こっちから攻撃を仕掛ける。二人には漏れた敵の処理を頼んだ!」


 俺は早口で二人に指示を出した。


「ちょっとユーキ焦っていませんか?」


「私も非常事態だと思うけどもうちょっと様子を見ても良いと思うわ。ユーキはさっき急がば回れって……」


「いいか? エルフたちの魔力たちがどんどん減ってる。魔族が魔法で吸い取ってるんだ。とっくに魔力は尽きて、代わりに生命力を使ってる。既に瀕死だ。……このままのペースだと死ぬぞ」


「それって本当なの……?」


「間違いない。魔族のスキルから見て、召喚魔法のための贄に使うつもりだ」


 アイナは、ブルっと身体を震わせた。


「でも、まだ間に会う。じゃあ、いくぞ」


 魔剣の斬撃は離れた敵に有効な攻撃手段になるが、囚われた非戦闘員がいる状況では使えない。

 ただでさえ弱っているのだ。一撃でもどこかに当たれば即死する。


 だから、この前覚えたばかりの新スキル——フレアを使うことにした。

 無属性のフレアを、離れた魔族3体を狙って発射する。


「邪竜様、どうかお受け取りを——うがああああああ!!!!」


 一斉に魔族が叫ぼうとした瞬間、3体の魔物が一斉に燃えつきた。

 さらに、2体の魔族がどこからか飛んできた矢に撃たれて姿勢を崩す。


 1秒にも満たない一瞬の怯み。でもこれだけで十分だった。

 俺とアレリアが次々に住民を囲んでいた魔族を斬っていく。


 1秒が経過する間に、14体の魔族は残り4体まで数を減らしていた。

 隙を突いた攻撃ではあったが、多勢に無勢という状況でここまで戦況を有利に運べたのは良かった。


「エルフたちを安全な場所に。あと、このポーションを飲ませておいてくれ」


 アレリアとアイナには弱った住民たちの保護を頼み、俺は残った魔族と対峙する。

 ステータスを見た限りでは、俺一人でも十分に対処できる。


 住民を守らなくて良い状況なら、使える手もたくさんある。


 大勢の魔族を見張っていた15体目の魔族——ケルカスが叫んだ。


「勇者の奇襲じゃ! 慌てるでない。アレを使えい!」


「「「「キィィィィ!」」」」


 勇者? どこに勇者がいるんだ?

 見たところ、周りに勇者はいない。それも当然で、勇者は一人残らず他国に追放した。

 こんなところにひょっこり出てくるはずがないのだ。


 と、そんなことはともかく——


「なぜ魔物が出てこないのじゃ! 意味がわからぬ!」


「あー、もしかして変なボールのことか?」


「そうじゃ! 聞いて驚け、貴様らが辿り着く前に相手にした魔物の1000倍はいるじゃろう! なのに……なんで出てこんのじゃ!」


 慌てる魔族たち。

 なんか可哀想なので教えてあげようか。


「アレなら全部ぶっ壊したぞ。次からはもうちょっと丈夫に作るといい『次があれば』だが」


「な、なに……そんなはずは……。魔族の叡智の結晶が易々と壊されてたまるものか! それに、配置した数はワシも把握していないほど多い!」


 いや、さすがに把握しておけよ。

 そういうずさんな管理だからすぐ壊れる粗悪品になるんじゃないのか?


 それから、5秒が経っても魔物が出てくることはなかった。


「ぐぬぬ……勇者を甘く見ておったようじゃ。しかし、魔物なんぞいなくともワシの相手ではない! ワシに恥を書かせて生きて帰れると思うな! 無論、最初から生きて帰す気などないっ!」


 やれやれ、面倒臭いやつだな……。

 俺は肩を竦めて、苦笑を浮かべた。


 ステータスの差は絶対だ。こいつに大したことができないことはわかっている。

 でも、油断する気はない。

 俺は魔剣をしっかりと握って、ケルカスの出方をうかがうことにした。

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