第50話:ポーションが効いたみたいなんだが

 ◇


 ユーキが魔族の相手をしている頃、アレリアとアイナはエルフたちを避難させていた。

 主に、エルフの里に通じているアイナが導く形だ。


 MPが完全に枯れ、HPもゼロ寸前の瀕死。


「もしやその声……お姿……アイナ様が……戻られたのですか……!?」


「そうよ。詳しい事情は後。まずはここから離れて」


 アイナが連れ去られたことは、ここにいる誰もが知っている。

 戻ることはないと思われていたアイナがそこにいるということが心の支えになり、移動はスムーズだった。


「アイナはエルフの中では有名なのですか?」


「そうね……知らない人はいないと思うわ。小さな村みたいなものだしね」


「ただの知り合いにしては皆さんの反応がちょっと違うような気がしますけど……」


 ユーキだったら気づかなかったかもしれない微妙な反応の違いをアレリアは敏感に感じ取っていた。

 明らかに、普通の村人同士のやりとりには思えない。


「もしかして——」


「おしゃべりは後よ。みんなにポーションを飲ませないと!」


「……そうですね!」


 聞きたいことをアイナの口から聞くことはできなかったが、十分だった。

 アレリアは理解した。

 エルフの里におけるアイナの立場というものを。


 瀕死のエルフたちを連れてきたのは、まるでお城のように豪奢なお屋敷。

 全員を収容できるし、それなりに堅牢な建物だ。


 アイナは中に魔族がいないことを確認してから、導いた。

 残らず壁の中に入ると、アイナは内側から鍵をかけた。


 5体もの魔族と戦っているユーキのことが心配ではあった。

 だが、今の状況で自分にできることは特にない。

 歯痒くはある。でも、加勢に行っても逆に邪魔になってしまうかもしれない。


 ユーキは全部分かった上で最適な役割が見えている。


「無事を信じているわ……!」


 ユーキから受け取った大量のポーションを、アレリアと手分けして住民に飲ませる作業が始まった。

 人数が人数だけに、ポーションの数が足りない。

 とはいえ、非戦闘員のHP量/MP量は少ないので少量でも効果的だし、全快にまで回復する必要もない。


 しかも、このポーションはユーキ特製のもので、普通のポーションよりもかなり効果が強い。

 より少量でも同じ効果を得られる。


「意識を失っている人が最優先。次に子供とお年寄り。先に生命力ポーションを優先。これでいいですよね?」


「それで問題ないはずよ。って、アレリアの方が詳しいはずよね?」


「冒険者歴は私の方が長いですけど、エルフさん固有のやっちゃいけないこととかあるかもしれないですし」


「そういうところはユーキの影響かしら……」


 何はともあれ、ポーションの供給はスムーズに進んだ。


「す、すごい……! ほんのちょっとでここまで……」


 アイナは、意識を失うまで生命力を枯渇させ、死ぬ寸前だった老エルフに生命力ポーションを投与した。


 どのくらいの量を飲ませていいのかわからなかったので少しずつ飲ませたのだが、10分の1ほどの微量を飲ませただけで意識を取り戻し、生命力みなぎるいつもの姿に戻った。


「こっちも凄いですよ! この回復速度なら火の中を歩いても大丈夫そうです……!」


「本当にユーキって何者……!? 強くて優しくて、頼りになるだけじゃなくて、ポーション製作の才能まであるなんて!」


「あっ、もしかしてアイナ……。いえ、なんでもありません」


 何かに感付いたアレリアが、言おうとした言葉を戻した。


「アイナ様、このポーションは一体……かなり根の張るものなのでは?」


「値段がついているものではないわ。お金を出して買えるものでもないし——」


「いったい、どなたでしょう……我らを救ってくださった英雄に最大限を礼を尽くさねば!」


「ユーキという冒険者よ」


「むむ……失礼ながら聞いたことがない名ですな。……もしや勇者でしょうか?」


「勇者じゃないわ。普通の冒険者。——いえ、普通ではないけれど……」


「なるほど……。そのお方はどこに……?」


「今、たった一人で魔族5体を相手にしているわ」


「なんと! 朦朧とする意識の中で輝いていたあのお方が……! 我らも加勢しにいかねば!」


「ダメよ。足手纏いになるだけ。ここでジッと待っているのがユーキの一番の助けになる。……私はそう思ってる」


 ユーキは、エルフたちを避難させたら戻ってこいと言わなかった。

 暗に離れた場所にいてくれというメッセージだとアイナは受け取っている。


 アレリアが戻ろうとしないところを見ても、きっとそれは正しい。


 ユーキなら、きっと何事もなかったように魔族を倒してまた顔を見せてくれるはず。

 でも、そう信じていても、胸のざわめきが収まらなかった——。

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