第48話:モンスターボールを見つけたんだが

 ◇


 見張りの魔族以外は、俺たちの周りに魔族の気配はなかった。

 エルフの里からはプンプンと魔族らしい臭いが立ち込めているので、俺の勘が正しければ近くに魔族はいない。しかし油断は禁物だ。


 臭いがない魔族もいるかもしれないし。


 俺たちはエルフの里を目指して一本道の森の中で足を進めていた。


「もう少しで着くわ。近くに魔族は?」


「いないが——ちょっと止まってくれ」


「どうしたの?」


「あの道の脇にあるのは何かのオブジェなのか? 変わった見た目をしているが……」


「え?」


 俺の視線の先。

 道の右端に草で目立たないよう隠れたボールのようなものが置かれていた。

 ボールにしてはスポーツに使うようなものではなく、金属質の堅そうな材質をしている。


 紫色で、真ん中には継ぎ目が見える。開閉式なのか……?


「あんなの見たことないわ。……この一ヶ月くらいで置かれたのかしら。……なんのために?」


「アイナも知らないとなると、警戒すべきだろうな。ちょっと触らずそのままにしてくれ」


「わかったわ」


 俺は、手頃な小石を拾って、ボールの近くに落としてみた。

 ボールがパァーっと白い光を発する。


「な、なんですか!?」


「分からん。いや、あれは——魔物か?」


 5体ほどの漆黒の魔物が姿を現した。

 見た目はその辺のスライムやウルフと似たようなものだったが、魔眼で確認したステータスが普通と違う。


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 名前:魔族ケルカスに捕らえられしスライム Lv.10

 クラス:魔物

 スキル:なし

 HP:8912/8912

 MP:5212/5212


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 攻撃力:B

 防御力:C

 攻撃速度:C

 移動速度:C

 魔法攻撃力:C

 魔法抵抗力:C

 精神力:C

 生命力:B

 魔力:C


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 ———————————————————————— 


 俺たちの戦力なら難なく倒せるステータスではあるが——


「妙だな」


「色はなんか変ですけど普通のスライムとウルフですよね……?」


「普通のスライムはレベル10でもあんなに強くない。ウルフもそうだ。何かおかしい」


 考えられる可能性としては、あのボールに何らかの強化能力があるのか、あのボールに関係なく魔族ケルカスになんらかの関係があるのかの二つ。


「なんにせよ、魔物が目の前にいるのに放ってはおけないな」


 俺は、念のため魔剣ベルセルクを右手に持った。

 先陣を切って進んでいく。


「強化されてるだけじゃなく、攻撃的アクティブなのか」


 カルロン平原で見かけるスライムやウルフは非攻撃的ノンアクティブなので、こちらから攻撃を仕掛けるまでは攻撃してこない大人しい習性を持つ。


 しかしこの魔物は違うみたいだ。


「よっ——」


 軽く剣を振り、一撃で5体の魔物を倒した。

 感触も、斬られた反応も普通の魔物とは違う。


 違った点といえば、倒した瞬間に普通の色に戻ったところか。


「あっ、黒くなくなってます!」


「見分けがつかないわ。……なんだったのかしら」


「さあな。——でも、似たようなボールがまだ何個もあるみたいだぞ」


 よくよく脇の茂みを見ると、1メートル間隔くらいで大量のボールが転がっていた。


「あまり中身の魔物は強くなさそうなので、手分けしましょうか?」


「いや、もうちょっとこのボールの仕様を知っておきたい。急ぎたいのはやまやまだが、多分エルフの里の中にも大量にこれが設置されてるんだろうし、今のうちに対策法を考えておきたい」


 その後、ボールを見つけるたびに違ったことを試した。

 ボールに直接石を当ててみたり、石を当てずに近づいたり、ボールから魔物が出る前に剣で斬ってみたり。


 それでわかったこととしては、以下の通りだ。


 ・ボール自体に当たるか当たらないかにかかわらず衝撃に反応する。

 ・近くに近づくだけでも反応する。

 ・魔物が出る前に壊せば魔物は出てこない。


 特に3つ目がわかったことは朗報だった。

 そう、面倒な雑魚の相手をしなくても、壊してしまえば戦わずに済むのだ。


「ちょっと、アレ試してみるか」


 俺は、『気候操作』を使ってみた。

 天気・降雨量・温度・湿度を操作できるスキルだが、今回使うのは天気。

 落雷を人工的に落としてみる。


 対象は、目の前にあるボールではない。

 ボールが一つなら直接落としてみてもいいのだが、隠れた場所に何個あるかも分からないものをいちいち探すのは面倒だ。


 空一面に雷雲が発生し、落雷が発生する。

 多分、自然現象ではこのボールは反応しない。この辺りにも雨が降ったり、風が吹く事もあるはずだ。そのたびに反応していたらトラップとしての機能を果たさない。


 その予想は正解だったようで、なんの変化もなくただボールはそこに鎮座していた。

 落雷が発生した直後。ボールはパキン! と音を出した。


 小石を投げてみても、反応しない。

 やっぱり、ボールが壊れると魔物は出現できないらしい。


 落雷は強力な電磁波を発生させることが目的だ。

 電子レンジにスマホを突っ込むと壊れるだろう? そういう理屈である。


 一般的な落雷よりも強力な電磁波を地上付近に発生させるよう少し工夫した。

 改めてなかなか汎用性の高いスキルだ。


「ユーキ、一体何をしたのですか!?」


「ボールの位置さえ分かれば無効化できるってことよね……?」


「そんな大したことはしてないぞ? 落雷の副作用で勝手に破壊してくれたんだ。俺はそもそもボールを狙ってない」


「あー! またユーキのいつもの始まりましたね!」


「ユーキって敵を作りそうな性格してるわよね。……それも無自覚で」


 うーん?

 正直に思ったことを言っただけなのだが、なんか気を付けた方がいいことあったのかな?

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