第43話:余罪が山ほど出てきたんだが

「お、お前はさっきの……! 絶対話さねえ! 俺は何も悪事を働いちゃいない! 全て合法の範囲内だ。分かってるなら聞くはずがない!」


 なかなか必死の形相だ。

 しかし悪人が嘘をつくことは知っている。


「そうだ。お前の言う通り、証拠を掴めなかった事件もあるし、商人が既に死んでいて聞き出せなかったケースもある」


「……そうだろ?」


「だが——今上がっている証拠だけでも十分お前を死罪にできるだろうな」


「な、何を……冗談だろ? ハッタリだって分かってるからな!」


「これが冗談を言っている顔に見えるか?」


「し、信じねえ……」


 信じないと言うわりにはかなり効いているみたいだが。


「俺としてはべつにお前を死罪にしたいわけじゃない。直接何か恨んでいることがあるわけじゃないからな。お前の出方によっては、罪を大幅に軽くしてもいいと思っている。俺には、それだけの力がある」


 ピクッと男の眉が動いた。

 これはいけそうだ。


 俺は、男の耳元で囁く。


「ここだけの話だが、俺は新国王レグルスと繋がっている。俺が口利きすれば、お前の罪くらいどうとでもなる」


「そ、それは本当か!?」


 俺はそっと耳元を離れて、椅子に座り直した。

 施設長の俺への対応を見せていたので、俺にそれだけの権力があると認識させることは容易だった。


「ああ、本当だ。ただし、ある条件をお前が飲めばの話だけどな」


「自白しろってか?」


「もちろんそれが狙いだ。だが、俺は無理強いしない。衛兵でもなんでもないからな。……これは、ただの提案だ」


 俺はふっと口元を緩める。

 上手く話を運べた。


「お前たちの盗賊グループは、全員で5人だな。ってことは、1人くらい吐いても良さそうなもんだよな?」


「俺の仲間は口が硬い。万が一に備えて言い聞かせてある」


「そうか。じゃあ、これだったらどうだ? もし、他の4人が口を割らずにお前だけが自白すれば、無罪放免にしてやると言ったら」


「————っ!」


 カッと目を見開いて、俺を見る男。


「ただし、もしお前だけが自白しなければ死罪になる。別のパターンとして、例えば2人が自白して3人が黙ったら、自白した方には軽い罪を、自白しなかった方には重い刑が課せられることになる」


「ってことは……」


「黙ってれば死罪。自白すれば少なくとも死罪は免れるし、終身刑に仮釈放は付くだろうな。どっちがお得かわかるな?」


「いや待て、俺は騙されんぞ。仮釈放付きだとしても俺が出る頃には爺さんだ。そんなことのために仲間を裏切るわけには……」


「ふっ、お前の仲間は口を割らないんだろ? なら無罪放免だ」


 盗賊のリーダーの男が、唾を飲む音が聞こえた。

 制限時間の5分まで、あと1分を切った。ちょっと急ぐか。


「仕方ないな。特別サービスだ。もしすぐに吐けば、無罪にならなかったとしても辺境にある刑務所に送致するよう手配しよう。ここだけの話だが、脱走者がよく発生するらしいんだ。辺境だけに逃げた脱走者が捕まったことはない」


「それは、本当か……? なら、ここで吐かない理由がねえよな?」


「俺はお前のことを思って言ってるんだ。俺を信じろ。あと10秒以内に決断するんだ。10……9……8……7……」


「わ、分かった! 今すぐ洗いざらい話す! そ、それで頼んだぞ! 嘘つくなよ!」


「俺は悪党とは違う。騙して吐かせるようなことはしない」


「ならいい。俺たちがやった悪事は、全部で200件を超える。思い出しながらになるが……」


 かなりの時間がかかったが、おそらく全てであろう罪を認めた。

 全てを吐き出した盗賊の顔は、どこか清々しいように見えた。


「他の取調べが終わるまではわからないが、お前の誠意は伝わった。後は俺に任せておけ」


「おう、頼んだぜ」


 すっかり俺を信頼したようだ。

 取調室を出た俺。そのまま帰ろうかと思っていたら施設長が追いかけてきた頭を下げた。


「素晴らしい取調べでございました! いやはやあのような手があったとは……。そもそも奴は死罪ではなく終身刑。見事なハッタリでございました」


 そう、旧王国時代は色々と緩かった。

 国王が盗賊を利用していたくらいなのだから、甘くなるのも当然といえば当然かもしれないが。


 急ピッチで改正は進めているが、過去の罪を新法で裁くことはできないのだ。


「ありがとう。ムチで打つよりアメをぶら下げる方が上手くいくこともあるってのは大事だから覚えておくといい」


「お言葉頂戴いたしました。しかし、あのような提案をされてもし他の者が口を割らなかった場合は……」


 施設長は、大罪人が世に再び放たれるのを恐れているらしい。


「何を言ってるんだ? どんなことをしてでも口を割らせればいい。俺は同じ条件で子分にもチャンスを与えると言ってないしな。リーダーが喋ったことを話せば大人しく自供するだろう」


「な、なるほど……そこまで考えておられましたか。しかし、そうだとしても全ての罪が明らかになれば死罪にもできたはずでは……?」


「そうかもしれないな。だから、辺境の刑務所に送致すると言っただろ? 離島にあるワイヤック刑務所——通称『ヘルヘイム』にな」


「ヘルヘイム……! なるほど、地獄にも等しい苦しみを味わい、脱走者が絶えない。……しかし、脱走者は海を超えられずに息絶えていく……という」


「死罪でも足りないくらいの大罪を犯したんだ。これが相当だろう」


「いやはや、さすがでございます。……感服いたしました」


 そんな大したことはしていないと思うんだが……。

 有名なゲーム理論をちょっと改造してチート仕様にしてみたくらいのもの。


「じゃあそろそろ失礼するよ。後はよろしく頼む」


 俺は留置所を去り、アレリアとアイナが待つ宿へと向かった。


 しかし——まだ全ての仕事が終わったわけではない。

 今日のところはここで一段落と言った感じだが、盗賊のリーダーが自白した中に、無視できないことが含まれていたからだ。


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