第42話:空間魔法らしいんだが
◇
盗賊をアイテムスロットに収納してから、王都の留置所に着くまでにそう時間はかからなかった。
留置所は王都の外れに位置しているのだが、アジトの場所が中心地に近い場所にあったおかげだ。
「お待ちしておりました、ユーキ様!」
何人たりとも逃さないようにと設計された留置所は、なかなか堅牢そう建物だった。
門の前には交代制で24時間ずっと門番が待ち構えている。
俺に挨拶してきた若い門番が、少し怪訝な顔をした。
「あの……盗賊はどこに……?」
「ああ、ここだ」
俺は、アイテムスロットから半分だけ盗賊の一人を取り出す。
「ひっ! ……い、生きてるんですか!?」
「それは問題ない。特殊な魔法でこうやって収納しておけるんだ。ここで解放するより、施設の中に入れてから出したほうがいいだろ?」
「それはもちろん。……ですが、こんな魔法があるのですね。さすがはユーキ様というか……噂通りのお方です」
正確には魔法かどうかよくわからないのだが、この方が説明が楽っぽいな。
今後同じことを聞かれたらこんな風に答えるとしよう。
俺は門番に案内され、施設の中へと入った。
「「「「「お待ちしておりました!」」」」」
「お、おう……待たせたな……」
10人くらいの衛兵たちから一斉に挨拶されるとは思わなかった……。
衛兵の中で一番偉い、施設長らしき爺さんが、俺の周囲を見て不思議そうな顔をする。
「施設長、ユーキ様は既に盗賊を確保されております! 自由に異空間から取り出せると仰っていました!」
俺の代わりにさっきの衛兵が説明してくれた。
衛兵の説明を裏付けるように、アイテムスロットから盗賊の顔をちょこんと出して見せた。
「ほう……空間魔法とな。これは噂以上じゃな……」
「空間魔法って言うのか?」
「左様でございます。現代では空間魔法の使い手がいないため、記録からの推測になりますが、まさに空間魔法ではないかと」
「なるほど、空間魔法か……」
ゲームの画面と同じようにしか見えないが、ゲームを知らなければそう説明するしかないのも頷ける。
スキルとしては存在していないみたいだから、空間魔法とは似たようなもので別物なんだろうけど。
「ま、それはともかく、今から取り調べをするなら、取調べ室まで行ってから取り出そうと思う。案内を頼む」
「かしこまりました。こちらでございます」
俺は衛兵たちの案内に従って、取調室を一部屋ずつ周って盗賊たちを取り出していく。
集団犯罪の場合は、それぞれ独立して調書を取る規則になっている。
口裏を合わせて衛兵を欺けないようにするための工夫の一つだ。
取調室はあまり光が入らないため少し暗い。
壁は石ではなさそうだが、堅そうな素材で作られている。オリハルコンとかだろうか。
部屋の中心にあるのは、無機質なテーブルと椅子のみ。
アイテムスロットから盗賊の一人を取り出して、椅子に座らせる。
「お、俺はアジトにいたはず。……なんで急に景色が!?」
驚き慄く盗賊の一人。
「ここは留置所だ。罪を贖うチャンスだぞ。悪いことは言わないからやったことを自白しろ」
「……っ」
カチャ!
腕を振り上げようとして、動かないことに気づいた男。
初めて自分の腕に手錠がかけられていることに気づいた様子だ。
肩を落として、冷や汗をかいていた。
やっと自分の状況を理解したらしい。
「ほ、本当に生きたまま連れてきたんだ……」
後のことは、衛兵たちに任せて、俺は少し休憩することにした。
呆然としていてちょっと心配だが、盗賊は動けないから大丈夫だろう。
◇
水分補給をしつつ三十分ほど、留置所の休憩室で身体を休めた。
少しは自供しただろうし、様子を見にいくとしよう。
盗賊たちのリーダーの取調べ室へと向かう。
確か、施設長が担当していたはずだ。
「様子はどうだ?」
「ユーキ様。少し手こずっておりますが、ご安心ください。すぐに吐かせますから」
「俺は絶対に吐かねえ!」
挑戦的な目つきで施設長を睨みつける盗賊のリーダー。
「黙れ!」
ドンッ!
施設長が机を叩いた音が部屋中に反響する。
「お前にも親がいるんだろう? 今頃泣いているぞ」
「俺は捨て子だぞ! 誰の愛情も受けてねえし、これからもいらねえ!」
「……大人しく白状しろ。調べればすぐに全部わかるなんじゃからな」
「へっ、分かってるんなら聞かねえだろ。俺の仲間だって絶対に口を割らねえ」
「ぐぬぬ……なら、力尽くで吐かせるまでじゃ!」
取調べはかなり難航しているようだった。30分経っても全く進展していない。
施設長は一旦盗賊から離れて、部屋を出ようとした。
「どこに行くんだ?」
「ユーキ様。ご安心ください。今から拷問をかけようかと思いまして」
「口が硬い奴は拷問くらいじゃ吐かないぞ。こういうのにはコツがあるんだ」
「……と、いいますと?」
「5分だけ俺に時間をくれないか? その間に吐かせてみよう」
「5分ですと……!? 構いませんが、この男に拷問以外は無理ですぞ」
「もし無理だったら、その時は拷問にかければいい」
俺は、盗賊のリーダーと向かい合って座った。
「さて、ちょっとだけ俺と話そうじゃないか」
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