第41話:先に手を出した方が悪いんだが
◇
「ここが、盗賊のアジト……?」
敵の居場所はギルドからそう遠くない場所にあった。
徒歩で10分ほど。
外観は完全に周りの民家と同化していて、一見して凶悪犯が潜んでいるようには見えない。アイナが信じられないような顔をするのも普通の反応だと思う。
「ここで間違いない。まあ、木を隠すなら森って言うしな。変に男ばかりで郊外に隠れる方が怪しいってのを相手もわかってるんだろう。王都なら人通りもそれなりに多いから、出入りが多くても不審に思われにくい」
「ユーキ賢すぎます! どうしてそんなことわかるんですか!?」
「単純な推理問題だからな。ちょっと筋道立てて考えるように気をつければアレリアもすぐに分かるようになるはずだぞ」
別段、特殊知識でもないと思うのだが、物語とかドキュメンタリーに触れる経験が少ない異世界では案外これも特殊能力なのかもしれない。
「さて、じゃあ俺が壁を破壊するから、アイナは盗賊を無力化してくれ。アレリアは万が一の時のフォローを頼む」
「わかったわ!」
「分かりました!」
「あっ、それとアイナに注意してほしいんだが。……殺さない程度でいいからな?」
凶悪犯であることには間違いないが、しっかりと事情を精査して事実を明らかにしなければならない。法のもとで鉄槌を下すのはその後でいい。
「ユーキじゃないんだから盗賊5人を相手にそこまでできないわよ!」
「ま、そう思うのも無理はないんだが、あまり自分の力を低く見過ぎない方がいいぞ? かなり痛い目に合わせることになるからな」
普通は逆である事は言うまでもない。しかし『神の加護』を付与した状態だと、ちょっと加減が難しいからな。アイナの安全のためには付与しないで特攻させるのはあり得ないので、手加減してもらうしかない。
「さて——じゃあ、扉をぶっ壊す。衛兵の調査によれば今は5人ともが中にいるはずだ」
言って、俺は無属性の『フレア』を、扉に撃ち放った。
ドオオオオォォォォン!
凄まじい轟音と共に、扉が破壊された。
こんなに派手に攻め込まなくてもいいじゃないかという批判もありそうだが、これは盗賊を撹乱させ、逃げられないようにするという狙いもある。
——念のためアジトの周りにはすでに結界魔法を張っているので、たとえ建物から逃げ出せてもその先はないんだけどな。
「あなたたちを確保しに来たわ! もう抵抗は無駄。手を上げなさい!」
アイナが大声で、中にいる盗賊に言い放った。
粉塵が落ち着いて来ると、完全に不意をつかれ、あたふたとしている盗賊の姿があった。
リーダーとの報告がある大柄の男が、驚いた表情で口を開いた。
「お、お前は……アイナ・ニーシェルか!? なぜここに!」
「……っ! あなた……! あなたたちは……!」
どうやら、アイナは気づいたようだ。
無論、俺は知っていてあえてこの依頼をアイナに割り振ったのだが。
「よくも、エルフの尊厳をコケにしてくれたものよね!」
「ひ、ひいいい!?」
アイナをエルフの里から拉致し、悪徳商人に売却したのが、彼らの一味だったのだ。
彼らは、アイナだけでなく継続的に多数のエルフを連れ去っていた。
「私一人が犠牲になれば、他のエルフには手を出さないって、あなたたちはそう言ったわよね。……でも、私は王都に連れてこられてから聞いたわ。あなたたちの会話を——次の計画を立ててるって!」
「そ、それは誤解なんだ! 本当は何もしていない! 冗談で言ってただけ! 信じてくれよォ!」
必死に嘘をついて弁明しようとする盗賊たちに、俺は嘆息する。
「いや、間違いじゃないぞ。ちゃんと商人への裏取りもできている。お前たちがアイナを商人に売った後にも、少なくとも10件は繰り返してる」
キッとアイナが睨んだ。
「あ、あの野郎……裏切りやがって……」
「大抵の商人は何かしら後ろめたいことがあるものだからな。簡単にいろいろ吐いてくれたよ」
「チッ」
リーダーの男が舌打ちして他の4人に目配せした。
4人が一斉に頷き、そして——
「相手はたったの3人。数の暴力で叩きのめしてやる!」
「「「「うおおおおお!!!!」」」」
それなりに強い男たちが5人一斉に襲って来る。それも、自分を捕まえた張本人。——それなのに、アイナは動じた様子はなかった。
さすがの俺もこれには少し驚いた。
まともに戦えば勝てるはずだが……。
そういえば、まだステータスを見ていなかったことを思い出す。
『魔眼』を使って、盗賊のリーダーの男を覗いてみた。
「ああ、なるほどな」
あえて記憶するまでもないほどの雑魚だった。
Cランク冒険者相当。この程度の男たちが何人集まったとしても、アイナを捕まえられたとは思えない。『神の加護』なしでも同じ結果だ。アイナが捕まった理由は何か他にあるみたいだな。
さっきちょっと気になることを言ってたみたいだし。
「力尽くで勝てないから、騙したってことを忘れてもらっちゃ困るわ」
冷たく言い放ち、アイナは次々と弓を引いていく。
恨んではいるはずだが、俺の指示通りちゃんと殺さないよう急所を外している。
「うあっ!」
「あ”あ”!」
「ぐおぉ……」
「ああ……」
「あぁ……!」
5人それぞれが、それぞれの反応で地に伏せた。
「ご苦労だったな。アイナ。試験は文句なしの合格だ。いろいろと思う事はあると思うが、この後は留置所に連れて行く。分かってくれるな?」
騙され、自分だけでなく仲間まで酷い目に遭わされたのだ。
本当は殺してしまいたいのが本音だろう。
でも、こいつらにはまだまだ余罪が残っている可能性が十分にある。
それを聞き出すまでは、死んでもらっては困るのだ。
「いいえ、いいの。……それより、なんだか疲れたわ」
「ああ。ギルドへの報告はいつでもいい。身柄を確保してるんだからな。今日は……ゆっくりしてくれ。アレリア、アイナを頼む」
「分かりました!」
俺はこいつらを留置所に連れて行くという最後の仕事が残っている。……昨日役人にした約束を果たすため、すぐに向かうつもりだ。
気を失っている盗賊たちに使う手錠を5つ、アイテムスロットから取り出した。
ガチャガチャと次々に確保していく。
この手錠をかけるとステータスが下がるというのは本当だという確認も取れた。
「しかし、こいつら全員かついでいくのか……? 応援を呼んでもいいけど……いや、ちょっと待てよ」
俺は、試しに盗賊の一人をアイテムスロットに放り込んでみる。
「え、え!? 人が……消えました!?」
「いや、大丈夫。この通りいつでも取り出せるから」
「まるでポーションみたいな!?」
出し入れしても死なないようなので、アイテムスロットに5人を収容して連れていくこととしよう。
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