第40話:運が良いんじゃなく計画通りなんだが

 ◇


「昨日はどこに行ってたの?」


 アイナとアレリアと共に、ギルドへ向かう途中。

 俺の事情を知らないアイナから疑問を投げ掛けられた。


 正直に王国の執務をしていたと答えてもいいのだが……外だし、誰が聞いているかわからない。この場は隠しておいた方が無難だろう。


「まあ、ちょっとな」


「娼館……とか?」


「バカ言うな! そんなわけないだろ!」


「さてどうなのかしらね。男性ってこっそり楽しんで何食わぬ顔してたりするでしょう?」


「ユーキ、そうなのですか!? 私、許せません!」


「俺に限ってそれはねーよ! 昨日は……その、色々あったんだよ。忙しかったしそんな余裕はなかった」


「そう、忙しかったのね」


「絶対勘違いしてるだろ!?」


「ユーキは不潔です……」


「アレリアは分かってくれるだろ!?」


 少なくともアレリアにはどこで何をするか説明しているし、そんなことがない事は知っているはずだ。

 アイナと一緒になって悪ノリしやがって……。


 まあ、こんな会話ができるくらいには仲良くなったということで喜ばしいことではあるのだが。

 主にアイナから疑惑の目を向けられつつ、ギルドに到着した。


「あっ、さっそく来ましたね。ではお勧めのEランク依頼を……」


 俺たちが入ってきて早々に、受付嬢が数枚の依頼書を持ってきた。

 いつの間にかVIP待遇になってるなこりゃ。


 確かに普通ならありがたくお勧めの依頼を全部受けるのだが、今日はちょっと事情が特殊だ。


「あー、すまない。ありがたいんだが、今日はちょっと違う依頼を受けにきたんだ」


「違う依頼ですか?」


「まともにランクを上げていたら時間がかかる。アイナに昇級試験を受けさせて、今日中にCランクまで引き上げたいんだ」


「昇級試験ですか……? ギルドにはそんな仕組みは……あっ! ちょっと待ってくださいね!」


 受付嬢は、慌ててカウンター下に置かれたマニュアルを確認しに戻った。

 昨日の今日じゃ、こうなるのも無理はない。


 俺たちはカウンターの方へと向かった。

 確認を終えた受付嬢が顔を上げる。


「今日から規則が変わったのですが、明らかに能力が足りているにもかかわらずEランクからスタートするのは冒険者にとって不利益だということで、例外的に昇級試験による飛び級が認められたそうです。……ものすごいタイミングですね。ユーキ様の運の良さには驚かされます……」


「それは助かるな。どんな試験なんだ?」


 白々しく返事をしているが、ギルドに規則を変えるよう働きかけたのは俺だし、そのための依頼を都合よく出したのも俺だ。昨日の意見書は、このためのものだった。

 俺の依頼を王国経由、ギルド経由でアイナに受けさせるというかなりの迂遠ルートになっている。


「盗賊のアジトを襲撃し、全員を捕縛すること——となっています。しかし新人冒険者がいきなり受ける依頼としては些か難易度が高すぎるような……」


「分かった。それを受けよう。その依頼を達成すればすぐにCランクになれるんだろ?」


「分かりました。では受注ということで……あとは、二名以上の監督官が必要なので今から探しますね」


「俺とアレリアで問題ないんじゃないか?」


「えーと……」


 意見書をもとに改正されたマニュアルを再度確認する受付嬢。


「あっ、パーティに高位冒険者がいる場合は監督官を任せてもいいみたいです! なるべく普段と同じ環境の方が変に緊張しないからって……!」


 我ながら俺たちに都合が良すぎるルールだが、筋は通っているし、今後もこのルールは運用されていく。だから職権乱用じゃない。ギリセーフ……だと思う。


 っていうか俺じゃなくてレグルスが書いたことになっているし、そもそもただの意見書だからルールを変えたのはギルドだし。

 ……と、誰に詰問されているわけでもない言い訳を並べながら、アイナの方を向いた。


「勝手に受けるとは言ったが、最終的にどうするか決めるのかはアイナだ。どうする?」


「Cランク相当の依頼ってことよね?」


「そうだな。盗賊は5人くらいだし、Cランクの魔物を5体同時に相手にできるかって考えればいい」


「それなら大丈夫そうだわ。私、受ける」


「アイナならそう言ってくれると思ったよ。ってことで受けさせてくれ」


 もし断られたら、ちょっとトイレとか苦しい言い訳をして一人で捕縛しに行かなきゃいけなかったところだ。


「あのユーキ様」


「ん、なんだ?」


「盗賊が5人程度ってどうして分かったんですか……? 私、言ってないはずです……」


「え……? あー、まあ、大体の勘だよ。ほら、普通盗賊のアジトって5人とかそのくらいだしな!」


 依頼を出した張本人だから知っていて当然の事実なのだが、いつの間にか間違って知らないはずの情報を口走っていたらしい。


「勘ですか……? 確かに上位冒険者の勘はよく当たるとは言われますが……」


 受付嬢からの疑惑の眼差しはより強いものになっていった。

 多分、俺が王国のトップとして暗躍していることがバレたわけではないと思うが、事前にある程度知っていたんじゃないかという事は気づかれてしまったかもしれない。


「まあそんなことより、依頼が出てるって事は事態は一刻を争う! いますぐに出よう! な!」


 強引に依頼を受注し、出発した。

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