第39話:仕事が忙しいんだが
◇
その後、アイナは最終試験で深夜のキャンプを守り切って無事に合格した。
Cランク冒険者数人との戦闘になったのだが、全員を戦闘不能にしての圧倒的合格らしかった。
俺は直接見たわけじゃないので、詳しい事情はわからないのだが受付嬢によれば普通は襲撃者を倒しての合格パターンはないらしい。
数年に一度の逸材だと褒められていた。
俺は最終試験を不戦勝で合格したので、まともに試験で合格したアイナはすごいんだと思う。多分。
一晩中キャンプを守っていたアイナはかなり疲れたようで、宿に戻ると倒れるように眠った。
俺は、アイナが寝ている間に一人で王城に戻っていた。
亜人の件は俺の対応が遅れていたことも原因の一つなので、実は役人に調べさせていたのだ。他にも溜まっていた仕事を消化しなければならなかったという事情もある。
この間、アイナの様子はアレリアに見てもらっている。
王城の中の、俺の執務室。
「それで、あの件はどうなった?」
「最近エルフを手放したという商人から事情を聞いたところ、やはりエルフの里から連れてきた盗賊から購入したものだったと」
「やっぱりそうだったか。……盗賊の名前は割れたか?」
「はい。かなり余罪もありそうですし、改正法が施行された後にもしばらく拉致を繰り返していたみたいですね」
「裏取りまでできているのか。よくやったな」
「ユーキ様にお褒めいただき光栄でございます」
俺が指揮を取るようになってから、役人の組織としての能力は格段に上がっていた。
前王政の時とメンツは同じだが、歳だけ食った無能役人をバサバサとクビにして若くて有能な役人を出世させたのは正解だったみたいだ。
「なら、あとは盗賊を引っ張るだけか。そこまでわかっていると言う事は——」
「アジトも内偵が終わったところです」
「もうそこまでやっていたか」
「ユーキ様、奴らは数日以内に王都を離れ、国境を超えるつもりで動いているようです」
「対応を急がないとな……」
「衛兵を動かしましょうか」
「いや、奴らを甘く見ない方がいい。この件は俺に任せてくれ」
「はっ、失礼しました」
あのアレリアが易々と捕まるくらいなのだから、王都基準ではそこそこの手練れだと考えた方がいい。まともに対応できるのは、現状では俺とレグルスとアレリアくらいだ。
『神の加護』さえあればアイナでもどうにかなるかもしれないが。
ん……? そうか、よく考えればアイナでも対処できるのか。
「それより、アレは持ってきてくれたか?」
「お持ちいたしたました。こちらです」
俺は、役人から目的の物を受け取った。
それは、手錠だ。
「本当にこんなもんで弱体化できるのか……?」
「ええ、しかもこれは特注ですから普通のものよりも強力です」
アイナを見つけた時に、かけられていた手錠を砕いた。
異世界の手錠は単なる手錠ではなく、能力を弱体化させる魔道具を兼ねていることが多いらしい。
盗賊を捕縛したとしても、俺が常に見張っているわけにはいかない。
そのことを役人に相談すると、こんなアイテムがあることを知った。
俺は目の前の手錠10個を受け取り、全てアイテムスロットに収納した。
「衛兵を……いえ、騎士団を付けましょうか」
「いや、いい」
「しかし……相手の数は少なくとも5名が確認されています。危険かと」
「俺に考えがある。それに、今の騎士団では足手まといになるかもしれない」
「そうですか。陛下を超える実力を持つお方ですから、きっとそうなのでしょう」
「明日、昼ごろに留置所に連れて行く。あっ、それで頼みがあるんだが」
俺は、紙を手に取り、そこにスラスラと書き込んでいく。
もう異世界の文字も書き慣れたものだ。
「これは……?」
「ギルドに緊急のルール改正を求める意見書だな。それと、王国からの依頼書も同封してある。レグルスにサインしておくよう伝えておいてくれ」
まあ、王に全権力が集まっている王国では、王からの意見書など実質的に命令に等しいのだが。
大したルール改正ではないのだが、諸事情で急ぐ必要がある。
「承りました。お任せください」
「頼りにしているぞ」
役人は、執務室から出て行った。
さて、今日一日は仕事をこなすとしよう。急ピッチで進めて2〜3日分は集中してこなそう。
明日はアイナの初依頼に付き合わなきゃ行けないからな。
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