第36話:こうなるのは必然なんだが
◇
行きと同様、帰りも時短のためにスイに王都まで運んでもらったのだが、「怖くない」と言いつつ俺にしがみつくアイナと、「怖い」と言いながら俺にしがみつくアレリアの両手に花という事件がまたしても起こってしまった。
ステータス上の数値減少は見られないが、何か大切な体力的なものがゴッソリ減った気がする。
羨ましいと思う者もいるかもしれないが、挑戦するなら心してかかった方がいい。
王都に戻ってすぐに、ギルドへ向かった。
今日は遅くなってしまったので、閉店ギリギリの時間だ。
「あっ、今日のユーキ様たちは遅かったですね〜! さてはついに苦戦しましたか?」
「そんなわけないだろ。ちょっと色々あってな」
俺は、ギルド証を取り出す。
その間に、受付嬢はふとした瞬間に俺の後ろにいるアイナに目を留めた。
「ああー! ユーキ様が新しい女を連れています! それで今日は遅くなったんですね!」
「違う! 人を見境のない女好きみたいに言うな!」
遅くなった理由についてはあながち間違いとも言い切れないのだが。
「えー、でもこんな美人の子ばかり集めてたらそう思っちゃいますよ? 次は誰を連れてくるんですか?」
「誰も連れて来ねーよ。……ちょっと色々あって、アイナをしばらく保護することになってな」
「今のところはそういうことにしておきましょう」
「……で、アイナに冒険者試験を受けさせたいんだが、なるべく早く合格させたい。できれば明後日の朝までに。できるか?」
「やっぱり配下に加えるつもり……はさておき。ユーキ様の申し出とあれば全力で準備しますが——あくまでも実力を伴っていなければ合格することはありませんよ?」
「それは問題ない。俺の時と同じくらいの難易度なら普通にクリアできる」
「ちょっとあれは特殊な試験でしたけどね……。いいでしょう、明日のお昼から魔力試験を開始。これはすぐに終わるので、実技試験。夜に最終試験。……かなりハードですが、頑張ってくださいね」
「助かるよ。あっ、それとアイナなら絶対受かるから今のうちにギルド証も作っておいた方がいいと思うぞ」
「……ユーキ様がそう仰るなら、作っておいた方が良さそうですね。ただし、繰り返しますがいくらユーキ様のお気に入りでもそれだけでは合格とは認めませんよ? ギルドは今も昔も公平中立を掲げているんですからね!」
「分かってる。これは純粋なアドバイスだ。贔屓目も何もない。じゃあ、また明日昼ごろにアイナを連れてくる」
なんたって、ステータスで数値を見れるのだから、贔屓しようがない。
数字は残酷である。
強いか、弱いかが瞬時に分かってしまうのだから。
◇
「どうしてユーキがついてくるの!?」
俺とアレリアはいつも王城に泊まり込んで宿泊費を浮かせている。
だが、今日はとある宿の一室にいたのだった。
そう、アイナが泊まる部屋だ。
「アレリアが、アイナが一人ぼっちになると心細いからって聞かなくてな」
「明日は大切な試験なんですから、夜はしっかり眠らないとダメです!」
「百歩譲ってアレリアが泊まるのはわかるけど、なんでユーキまでついてくるの!?」
それは、俺もちょっと迷ったところだ。
会ったばかりの女性と、同じ屋根の下で一夜を共にするというのは——どこかの皇族の少女は気にしていないようだったが、気にして当然だ。
しかし、これにはワケがある。
「アレリアは俺がいないと心細いらしくてな。仕方がない。文句はアレリアに言ってやってくれ」
「…………」
アイナは呆れたような顔をして、口ごもった。
「まあ、この部屋借りてくれたのはユーキだし、……泊まるのが自然よね」
「そういう見方もできるな」
「二人でコソコソ変なこと始めないでよね?」
「変なことってなんだ?」
「そ、それは…………!」
なぜか、顔を真っ赤にして塞ぎ込むアイナ。
「恥ずかしくて言えるわけないでしょ!」
アイナは、なぜか俺を睨みつけた。
やれやれ、情緒不安定もここまで極まるとちょっと問題だな。
早く落ち着いてくれるといいんだが。
「さて、さっさと夕食を食べに行って今日は早めに寝るぞ。試験が昼からとはいえ、朝から起きていないとベストパフォーマンスを出せないからな」
◇
誰がベッドで寝るのか——とか、やや揉めたが、無事に眠りについた。
ちなみに、俺がベッドで寝て女子二人は仲良くくっついて寝てもらうという訳のわからないオチになったのだが。
俺はふわふわのベッドでゆっくりと疲れを癒すことができ、朝になった。
昨日は早めに寝たおかげで、まだ午前6時くらいだ。
ちょっと水でも——
と、右手で身体を支えて起き上がろうとしたその時だった。
むにゅ。
「……」
この感触は覚えがある。
くそ、またアレリアがベッドに潜り込んで来てたのか!
何回勝手に入るなと言えば覚えるのだろうか。
俺はそっと右手を離す。
右手がダメなら、左手を使えばいい。
簡単なことだ。
だが——
むにゅ。
「……」
今度の感触は、覚えがなかった。
初めて触った感じがする。
だが、さっき右手で触ったものと似ているような気がした。
例えれば、手の感触が人によってちょっと違うくらいの感じだ。同種のものであることに変わりはない。
——俺は全てを察した。
幸い、二人は起きていない。
こういう時に無理に起きれば、また面倒くさい事になる。
俺は知恵を絞って、一つの解決策を考えた。
もう一回寝よう。そして、見なかったことにしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます