第35話:奴隷エルフが奴隷とは思えないほど強かったんだが
◇
ふぅ。
なんとか、地獄のような天国のようななんとも言い難い時間が流れ、目的地に到着した。
「確か、倒せばいいのは……レッドスライムと、ホワイトラビット、ブラックウルフ……全部いるみたいだな」
ガイドに書いてある通り、生息地はドンピシャだった。
それなりにウヨウヨいるので、すぐに依頼は終えられそうだ。
「スイ、いつも通り魔物集めればいい?」
いつもの小さな姿になったスイ。
もう手順を覚えてくれたみたいだ。
「いつも悪いな。それで頼む」
スイが近くにいた魔物をたくさん集めて、まとめて俺がいる場所まで連れてくる。
いつもなら、斬撃で吹き飛ばして終了。——と面白みのない展開になるのだが、今日はちょっとやってみたいことがあった。
実は、魔族を倒した時に、新しいスキルを覚えていた。
しばらくバタバタしていなかったから確認できなかったが、このスキル名が想像通りの魔法が使えるものだとしたら、もっとスマートになるし、依頼の効率が良くなる。
そのスキルは、『フレア』。
広範囲に渡る攻撃ができるし、基本は無属性だが、スイがいる俺なら水属性のフレアも使える。
「連れてきたよー」
スイが50体ほどの魔物を連れてきた。
初めて使う魔法でこの数を相手にするのは危険ではないか? と思われるかもしれないが、その時は斬撃で吹き飛ばせばいいだけだ。なんの問題もない。
「な、なにやってるの!? ユーキ死ぬ気!? きゃああああ!!!!」
アイナが、張り裂けるような声で叫んだ。
手が離せない俺に代わって、アレリアが適切な解説をしてくれていた。
「アイナ、大袈裟ですよ。あのくらいの数は大したことないのです」
「本気で言ってるの!?」
「ええ。100倍くらいいるとちょっと苦しいかもしれませんが、あの数なら大丈夫です!」
うーん、それは違うんだがな。一撃で倒せる雑魚が何匹いようが同じである。
「さて——」
俺は、新スキル『フレア』を使ってみた。火属性の魔物がいるようなので、水属性のフレアだ。
強烈な青色の光と、凄まじい高熱。
一瞬で50体の魔物が吹き飛び、周辺に草が生えていた地面は不毛の地となった。
「すごい……人間にこんなことができるなんて……!」
アイナは、目を見開いて驚きを隠せない様子だった。
「す、すごいですね……こんなの凄い魔法見たことないです! ユーキは剣士ではなかったのですか……?」
アイナだけでなく、アレリアも驚いているようだった。
「賢者って言っただろ? 賢者は、最高峰の剣技と、最高峰の魔法を同時に使える存在だ……と聞いたことがある」
ゲームではそうだったというだけで、異世界でも通用するとは思わなかったが。
「それよりも、俺ばっかり楽しんじゃってすまないな。アレリア——と、アイナも好きに魔物を倒していいんだぞ」
「え、アイナもですか!?」
アレリアは、俺の言葉が意外だったのか俺を二度見した。
「せっかくこんなところまで来て見てるだけってのも退屈だろうしな」
「しかし、ユーキ……」
アレリアが言いたいこともわかる。
ただ、俺には問題ないということがわかる。
「私が魔物を倒すの……?」
「ああ。できるんだろ?」
「でも、武器が……」
「こんなこともあろうかと、弓の一本くらい事前に手に入れてある。エルフといえば弓だろ?」
そう言って、俺はアイテムスロットから鋼鉄製の弓と矢を取り出した。
剣と魔法以外も使えないのかと確かめるために色々試したのだが、残念ながら俺には適性がなさそうだった。使えることには使えるのだが、あえて使おうとは思えなかった。
「ありがとう。……でも、ユーキみたいなのは無理よ」
「それは分かってるが、まあこの辺の魔物くらいなら大丈夫だろ」
「ユーキがおかしくなったので、危なくなったら私が助けますからね!」
「おお、それは頼りになるな」
アイナが弓を携え、油断しているレッドスライムを狙って、矢を放つ。
風や空気抵抗に乱されることなく、矢は魔物目掛けて猛スピードで飛んでいく。
正確に急所に着弾し、一撃でレッドスライムを倒した。
レッドスライムは、スライムと名がついているが、Cランク冒険者にとっては標準的な強さだ。一対一で一撃で倒せるなら十分すぎる。
「ええええ!? どうしてですか……?」
アレリアは、アイナがレッドスライムを一撃で倒せたのが意外だったみたいだ。
「簡単な話だ。アイナはもともと強い」
こっそりと『魔眼』でアイナのステータスを確認していた。
いくら簡単な依頼とはいえ、ただの一般人を魔物がウヨウヨいる危険な場所に連れてくることはない。
何かトラブルがあってはぐれるようなことがあっても、自分の身は自分の身で守れるはずだという確信のもと連れて行った。
アイナは、一般的なBランク冒険者程度の能力を持っている。
こんな子がなぜ盗賊に捕まるような事態になったのかは謎が深まるばかりだが、やはり俺の見立ては正しかった。
「なあ、エルフの里に戻れるまでには多少の時間がかかる。その間、もし良ければ冒険者でもやらないか? 良い暇つぶしになると思うぞ」
「私も、このまま里に戻るつもりはないの。というか、戻っても意味がない。私を、ユーキみたいに強くしてください!」
冒険者でもないのに、自ら高みを目指す理由はわからないが、会ったばかりの相手に余計な詮索をするのも野暮ってもんだよな。
「残念ながら俺は人を育てるノウハウを持ち合わせていない。そういうことなら、アレリアに教えてもらったほうが多分良いと思うぞ」
「私ですか!?」
「何も教えてないのに雑草みたいに勝手に成長しただろ? 振り返って見てどういうことに気をつけたのか体系化してみると良い。これからも役立つはずだ」
俺は転生したらいきなり強くなっていたパターンで、どうやったら成長するかだとかということがまったくわからない。こういうのは現地人の方が向いているし、アレリアなら実績があるから適任だろう。
「雑草はちょっと語弊がありますけど、わかりました! ユーキがそう言うなら任せてください!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます