第28話:魔族が弱すぎるんだが
「その認識で間違いない。魔族が魔物を呼ぶ原理は、魔力でおびき寄せているのだと言われている。過去に魔族が倒された時には魔物も潮を引いたように去ったと記録に残っている」
なるほど、スイが魔物をおびき寄せたのと同じ原理ってわけだ。
あとは、魔物の居場所がわかれば殴り込みをかけられるわけだが。
「今どこに魔族がいるのかは分かっているのか?」
「ああ。……王城の方に向かったらしい。衛兵たちは王城の防衛に手一杯で侵入する魔物は相手にしていない」
魔族の狙いは、王なのだろう。王の命を狙っているのか、別の狙いがあるのかはわからないが
分かる事としては——あくまでも王にとっては王都に住む人々よりも、自分が大切だということか。
「なるほど、つまり、王城に行けばいいってことか」
「お、おい……本気で魔族を相手にするつもりか?」
心配そうな目で俺を見るレグルス。
「そうしないと収拾がつかないんだろ?」
「それはそうだが、あんな愚王のために命を賭けるつもりか……? 俺はあの後色々と調べたが、辺境の地に重税をかけたり、気に入らないという理由で無実の人間を処刑したりと、血も涙もないやつだ」
レグルスは、正義感が強く純粋だ。
だから、王に違和感を覚えたその時から過去を調べたのだろう。
俺も初耳だったが、やはりというべきか、愚王であることは間違いなかった。
「勘違いするな。王の命なんてどうでもいい。魔族の狙いが王だけならいいが、この土地自体だった場合は全員が死ぬことになる」
「……そうだな。……だが……」
何か言いたそうにしているレグルス。
「死ぬなよ。ユーキ殿なら、ここから生きて逃げることくらいはできるはずだ。危なくなったら、後のことは気にしなくていい」
「ああ、気遣い感謝する」
次の魔物が少しずつ王都に到着するのが、約10分。
そこからまとまって集まり始めるのが、5分くらい。
時間があるとは言えないが——王城に着くまでにはそう時間はかからない。
普通に走れば着くまでに10分くらいかかる。
だが、空からならもっと早く到着できる。
「スイ、王城まで俺たちを乗せてくれないか?」
「分かったー!」
小さなぬいぐるみのようなスイが、本来の姿である『水眼の翼竜』の姿になる。
俺とアレリアがスイの背中に乗ると、空高く飛翔した。
サッと羽ばたくと、景色が流れるように過ぎていく。
異世界で初めての空の旅だが、楽しんでいる余裕はない。
すぐに王城の上空にたどり着いた。
「ご主人様ー」
「どうした?」
「スイ、このまま王城に突っ込んでいい?」
「できるなら構わんが、痛くないのか? 結構丈夫そうだぞ」
王城は石造りの建物だ。
確かにスイの力ならぶち破れるだろうが、頭から突っ込むと痛そうなんだが。
「大丈夫、鍛えてる!」
「そうか、それなら任せた」
返事をするや否や、スイは王城の最上階へと突っ込んでいく。
バリバリバリバリ!
発泡スチロールを砕くような感覚で石造りの王城を破り、中への侵入に成功した。
場所は、国王セルベールの書斎のようだった。
そこに、一体の魔族と、セルベールの姿。衛兵の亡骸があった。
魔族はセルベールの首にナイフを突き立てていたが、呆気に取られてこちらを見ていた。
「スイ、元に戻っていいぞ」
「分かったー!」
『水眼の翼竜』の姿だったスイは小さくなり、俺の肩あたりをいつも通りふわふわ浮くようになった。
それにしても、いきなり魔族と遭遇するとはなかなかの幸運だ。
まずは、魔眼で魔族のステータスを確認する。
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名前:魔族 Lv.10
クラス:魔物
スキル:なし
HP:84563/84563
MP:54120/56975
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攻撃力:A
防御力:B
攻撃速度:B
移動速度:B
魔法攻撃力:A
魔法抵抗力:A
精神力:B
生命力:A
魔力:B
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驚いたな。勇者よりも優秀じゃないか。
実は、勇者のステータスもしっかり確認していたのだが、才能がある普通の人間——例えばアレリアに短期間であっさりと抜かれるくらいには弱い。
勇者と言っても、大したことはなかったのだ。
まあ、スキルは磨けば使えそうだったので、必ずしも誰でも勇者を超えられるわけではないだろうが。
「お、おい人間か! 派手な登場をしようがお前たちの国王を殺すのは既定路線なのだ! お前も殺してやる!」
魔族が喋ってきた。
「魔物なのに喋れるんだな」
「我々を魔物と一緒にするな! 魔王様直属の特別な存在よ——キィ!」
魔族から、火の球が飛んできた。
俺は剣を一振り。
斬撃が火球に衝突し、俺に届くことなく消滅した。
「あ……あ……ああああ!? なんだそれェ!」
なんだも何も、普通に剣を振っただけなのだが……。
「魔族の全力ってそんなもんなのか? 大したことないんだな」
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