第27話:王都に魔族が出たらしいんだが

「どうせまた忘れるんじゃないのか?」


「次は忘れない! 反省している! ……この通りだ!」


 手を合わせて懇願するファブリス。

 この場限りの苦しい謝罪だな。


 本気で反省しているようには見えないが——


「では、誠意を見せてもらおうか」


「誠意……だと? 金か?」


「金でしか誠意を示せないわけじゃないぞ。確か——お前たちは俺をアレリア拉致の件で罪を着せるつもりだったそうだな」


「そうだが、それは王の命令で——」


「そうだ、それを告発しろ」


「なっ……!」


 ファブリスの顔が歪んだ。

 何も難しいことは言っていない。誰から命令を受けて、どんな方法で、どうすればいいのかを王国の民に伝えれば良いのだ。全て事実だし、それを周知できる力が勇者にはあるはずだ。


「それはできない! そんなことをすれば、王国が滅びる!」


「そうだな。より正確にいえば、平和的に新政府が誕生するだろう。血を流さずして、腐った王国が滅びるんなら民にとっても、周辺諸国にとってもいいこと尽くめじゃないか?」


「お、俺たちはどうなる!? 王のバックアップがなくなり、さらに愚王に仕えたということで信用は地の底に落ちる! どう落とし前つけやがるんだ!」


「知らんな。全部事実だろ」


「…………くっ」


「死ぬか、社会的に死ぬか。お前には二択しかないんだよ。さっさと決めろ」


「わ、分かった……! 告発する……してやるよ!」


「言質は取ったぞ。民の前で、ちゃんと説明しろ。分かったな?」


「あ、ああ。約束は守る! 俺はそういう男だからな」


 嘘をついたやつが何を言っても信用ならない。

 ファブリスから言質を取ったが、これは本人を納得させるためのものだ。


 一度はチャンスを与えたが、二度目はない。

 必ず、約束は守らせる。


「さて、じゃあギルドに戻って——って、なんだ?」


 王都の方から、大きな赤い花火が上がった。

 お祭りの時に見るような綺麗なものではなく、軍隊とかそういう組織が使うような連絡用の——


「赤い発煙筒……これって、魔族が出た時の緊急事態宣言じゃなかったか……?」


 勇者のうちの一人がポツリと呟いた。


 魔族。

 聴き慣れない言葉だな。いや正確には聞き覚えはあるのだが、俺がイメージしているそれと一致しているのかどうかはわからない。


「魔族ってのはなんだ?」


「魔物の一種だが、それとは比較にならないバケモノだ。一体の魔族が公国を滅ぼしたこともある……。他の魔物とは違い、人型で魔王直属だから区別してそう呼んでいるが……」


 なるほど、俺がイメージしていた魔族と大体同じ感じだ。


「そうか。アレリア、今すぐ王都に戻るぞ」


「魔族と戦うんですか!? ユーキは王国を滅ぼすんじゃ……?」


「政権と国民は切り分けて考えるべきだ。王はとんでもないクソ野郎だが、国民に非があるわけじゃない。それに、色々と守らなくちゃいけないやつもいるからな」


 異世界に召喚されてから、それなりに時間が経っている。

 その間に、世話になった人もいた。


 金がない時に格安で武器を売ってくれた武器屋の爺さん。

 格安で快適な環境を提供してくれた今も泊まっている宿屋。

 依頼のたびに世話になっているギルドの職員。


 魔族に国を潰せるほどの力があるのならば、放っておくことはできない。

 もちろん自分の命や、アレリアを優先はするが、確認するまでは倒せる敵か、そうでない敵かはわからない。


「ユーキはそこまで考えているのですね……! わかりました、行きましょう! 今すぐに」


 ◇


 王都に帰還して、一目見た時には唖然とした。

 普段は魔物なんていない壁の中にまで魔物が入り込んでいたのだ。


 非戦闘員が、魔物に襲われるという緊急事態。


「ここは俺に任せろ!」


「ありがとうございます! レグルス様!」


 ギルドの実技試験で俺と戦ったレグルスが、人々を守っているようだった。

 しかし侵入してくる魔物の数は増えていき、このまま放置すればキャパを超えそうだった。


 他にも冒険者の姿はチラホラ見えるが、圧倒的に人が足りていない。


「レグルス、これはどういう状況だ?」


「ユーキ殿か! 魔族が上空から侵入して、その魔族が呼び込んだ魔物が入ってきている! 倒しても、倒しても減らないんだ!」


 王都の外を見ると、続々と魔族が近づいてきていた。

 多分、今ここにいるだけの魔物の何倍もの数がすぐに集まってしまうだろう。


「王都の近くに冒険者はいないな?」


「ああ、エリアボスが湧いていたらしいから、外には他に誰もいないはずだ!」


「それは都合がいい。ちょっとだけ時間を稼ぐ。その間に次のプランを考えてくれ。根本的にどうにかする方法を——」


 俺は、魔剣ベルセルクを全力で横なぎに振った。


 鋭い刃となった斬撃が遠く離れた魔物へと飛んでいき、蹴散らしていく。

 だが、まだまだ数が多い。


 二回。三回。四回。五回……。


 十回ほど斬撃を放ったところで、魔物の進軍は大分落ち着いた。

 俺の射程は500メートルほど。


 それ以上離れた魔物には意味がないが、時間稼ぎにはなる。


「相変わらずとんでもない力だ。……勇者と同等……いや、それ以上か……」


「時間がもったいない。俺の見立てではこの魔物を魔族が呼んでいるんだとしたら、魔族を直接叩けば止まる。違うか?」

 

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