第22話:レベルが上がったんだが

 ◇


 1000体のレッドウルフを倒すとレベルが上がっていた。

 これだけ倒してLv1→Lv5となると、異世界の魔物の経験値はかなりマゾい。


 ステータスを確認した限りは、HPとMPが上がっているくらいで、特に目立った変化はない。

 しかしレベルアップの恩恵のメインはそちらではなく、スキルレベルが上げられることにある。


 あとで確認しておこう。


 王都に帰還して、レッドウルフの討伐依頼を達成したことをギルドに報告する。

 何体倒したか否かはギルド証に自動的に記録されるので、これが証明になる。


「あっ、ユーキさん報告ですね! 今度はどんなとんでもないことしたんですか!?」


 いつの間にか、俺がとんでもないことをするやつだと思われるようになっていた。

 昔からもこれからも特殊なことはしてないんだけどな……。


「今日は普通だぞ。レッドウルフの討伐依頼だ。この通り、特殊なことは何もない」


 ギルド証を受けたとった受付嬢が依頼内容と討伐数を確認する。


「またとんでもないことになってるじゃないですか!? なんですか1000って! 桁がおかしいですって。普通は2桁とかそういうものですから!」


「え、そうなの?」


 確かに1体ずつ処理するのが面倒だったからスイの力を借りて効率良く進めたが、時間さえかければ少なくとも3桁くらいはいきそうだと思ったのだが。


「そうです! 多分、一度の依頼で倒したレッドウルフの討伐数としては記録塗り替えてますからね!」


「そうなのか。すまんな、世間知らずで」


「はぁ……。やっと異常さに気が付きましたか。では、処理をするので……って、これランク上がりません!?」


「数はそれに合わせてきたぞ」


「なるほど、それで1000体ということですね……」


 受付嬢も俺の意図を察してくれたようだ。


「では、お二人とも新しいギルド証をご用意しますので、アレリアさん、ギルド証をお預かりしてもよろしいでしょうか?」


 受付嬢がアレリアに古いギルド証の返却を求める。

 しかし——


「いえ、私は魔物を倒していませんし……ごめんなさい」


 どういうわけか、応じなかった。


「え……? では、どうしましょう……」


 受付嬢は困惑顔だ。

 まさかランクアップのための返却を断られるとは思わなかったのだろう。


「ギルドの規定でランクアップのためには古いギルド証を回収することになっていまして」


「一体も魔物を倒していないのに、ランクを上げても仕方ありません! 私はDのままでいいです」


「……ええ? ランクアップのチャンスがあるのに断られたことは初めてです……」


「この場合はどうなるんだ?」


「冒険者が断った場合は、原則として現在のランクを維持します。しかし、断られた例はありません。下位ランクの依頼は今まで通り受けられるので……」


「なるほど。……ランクアップのチャンスってのは今だけなのか? ちょっと考える時間をもらうこととかってできないか?」


「今すぐに決断しなくても大丈夫なはずです。ただ三日以内にランクアップしないと権利失効になります。次に上げたくなった場合はもう一度条件を初めから満たす必要が……」


「なるほど、わかった。三日あれば十分だ。それと、俺のランクアップも保留にしておいてくれ」


「わかりまし……って、ええ!?」


 ランクアップは、冒険者パーティにとってはめでたいこと。

 俺だけが上がっても素直に喜べない。


「アレリア、ちょっと気分を変えよう」


 ◇


 一度ギルドの建物の外に出て、アレリアに聞いてみた。


「どうしてランクアップしたくないんだ?」


「ユーキを困らせたいわけではないのです。ごめんなさい」


「謝る必要はないし、責めてるつもりもない。理由を聞きたいだけなんだ」


 普通に考えて、ランクというものは上がって損するものではない。

 よりレベルの高い依頼を受けられるし、下位ランク向けの依頼も変わらず受けられる。自分にはまだ早いと思えばDランク依頼を受注すればいい。


「私とユーキとでは格が違います。勝つ必要なんてないと思います。……でも、ユーキが一人でこなした依頼で私のランクまで上がるのはおかしいと思うのです。そういう仕組みなのだとしても……」


「そうだったか……」


 俺は、自分のためというのもあるが、アレリアのためにも早くランクを上げて、なるべく報酬単価の高い依頼を受注し、早く王都を出たいと思っていた。


 そのせいで、さっきのレッドウルフ討伐では強引な形になってしまったことは否めない。

 良かれと思ってやったことだったが、アレリアの萎縮を引き起こす結果になってしまった。


「つまり、アレリアは、Cランク相当の力にとどいてないと思ってるんだよな。じゃあ、Cランクの依頼が普通にこなせることがわかったら、ランクを上げても問題ないわけだ」


「……そうなのでしょうか」


「だって、Cランクの依頼をこなせる力があるなら、極端な話、 いきなりCランクから冒険者をスタートしても胸張って名乗れるだろ?」


「それは、そうかもしれません。自分でも、自分の気持ちが整理できていなくて……」


「アレリアは自分が思ってるより強いってことを自覚した方がいい。今から、Cランクの魔物を倒しに行こう」


「え、でもユーキは保留に……」


「勝手に外に出て、勝手に魔物を倒すことに依頼も何も関係ない」


「それだと、せっかく倒してもお金にならないんじゃ?」


「お金とアレリア、どっちが大切かって天秤にかけられるもんじゃないだろ? さっさと用意するぞ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る