第21話:水属性が使えるようになったんだが
◇
日付は変わって、今日は依頼をこなす日だ。
冒険者になれて生活費の目処はたったとはいえ、それは依頼をこなしての話だ。
「初めての討伐依頼だな。レッドウルフの討伐——これって難易度どれくらいなんだ?」
「レッドウルフは群れで行動しないので、多分倒しやすいです」
「Dランクになったばかりの俺たちにとっては最適ってわけだ」
「ユーキならもっと強い魔物を相手にしても平気だと思いますよ?」
アレリアは俺の力をかなり過信しているらしい。
「冒険者ってのは慢心した時に足元を掬われるんだぞ。常に慎重に、石橋を叩いて渡るくらいがちょうどいい。命は一つしかないんだからな」
このセリフを転生した俺が言うのもどうかなと思うのだが、世間的にはそうだろう。
漫画やアニメのキャラはだいたい油断して窮地に陥る。
もっと慎重に上手く立ち回れば回避できるのに……と何度思ったことか。
俺なら、もっと上手くやれるはずだ。
今回の依頼で言えば、調子に乗って難易度の高い依頼を受けるのではなく、地道に順序立てて正攻法で少しずつ進めていく。
こうするのが一番生存確率が高いのだ。
「ユーキは昨日かっこよく自信を持てって言ってませんでした?」
「自信を持つのと慢心するのは別物だぞ。多少遠回りになっても、確実な方向で進んで成功体験を重ねることが自信に繋がるんだ。まあ、背に腹は代えられないって場面はあるけどな。この前みたいに生活費に困ってるとか」
ほうほうと頷くアレリア。
「ユーキって魔物にとっては一番相手にしたくなさそうな冒険者です……」
ということで、今回はレッドウルフの依頼を受けることにした。
10体の討伐で依頼達成になる。
しかし今回の依頼は変則的で、倒せば倒すだけ依頼を達成したことになるらしい。
つまり、100体倒せば10回達成したことになるらしい。
◇
レッドウルフは、ウルフの名のつく通り、狼のような見た目をしているらしい。
ウルフには珍しく、一匹で行動するらしい。
訪れたのは、カルロン山。
麓のカルロン森林から登ったところがその場所になる。
「あっ、いました! 赤い狼です!」
「あれか。まずは一匹。様子見だ」
まずは、魔眼でステータスを確認。
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名前:レッドウルフ Lv.3
クラス:魔物
スキル:炎の牙
HP:1025/1025
MP:641/641
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攻撃力:D
防御力:E
攻撃速度:E
移動速度:E
魔法攻撃力:E
魔法抵抗力:E
精神力:E
生命力:D
魔力:E
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特に問題なさそうだ。
俺は魔剣ベルセルクを右手に持ち、ゆっくりとレッドウルフに忍び寄る。
気配に気づいたレッドウルフが戦闘体制になる。
レッドウルフがジャンプし、炎を纏った牙が襲いかかる。
「よっと」
俺はひょいとかわして、剣をレッドウルフの胴に当てた。
軽く当てただけだったのだが——
ジュジュジュウ……。
と、水分が蒸発するかのような音とともにレッドウルフは絶命した。
「ご主人様、属性攻撃はどうだった〜?」
俺の近くでふわふわと浮いていたスイが話しかけてきた。
「属性攻撃?」
「レッドウルフがジュワジュワしたでしょ?」
「そう言えば、剣で斬ったにしては違和感がある感じだったな」
「あれね、スイがご主人様の配下になったから水属性が使えるようになったんだよ〜!」
「なるほど。でも水属性が使えると何か良いことがあるのか?」
「火属性の魔物に2倍の攻撃力になるよ〜!」
「それは凄いな。もしかしてさっきのレッドウルフを瞬殺できたのも属性のおかげか?」
「ううん、あれはご主人様の力だけ。腕力だけでも倒せるはずだから剣とか属性は関係ない」
力を試すにはレッドウルフでは弱すぎるということか。
まあ、ステータスを比較した感じでも雑魚だったもんな。
「なあスイ、散らばってるウルフを一箇所に集める魔法とかってないのか?」
「う〜ん、それはないけど、スイの魔力でおびき寄せることはできるかも」
「それで十分だ。頼む」
レッドウルフは、群れで動かない。
初心者冒険者にとってはありがたいのかもしれないが、一撃で倒せるなら複数を一気に相手した方が効率が良い。
スイにレッドウルフを集めてもらい、まとめて倒してしまえばいい。
一気に討伐数を稼ぐことができ、ランクも上げやすい。
Dランクの依頼は、俺にとってはちょっと物足りないということがわかった。
できるだけ早くCランクに上げたい。
「連れてきたよ〜!」
「よし、ありがとうスイ」
スイが連れてきたレッドウルフは100体といったところか。
魔剣ベルセルクを、片手で軽く振る。
刀身で直接レッドウルフを斬るわけではない。斬撃だけで攻撃する。
シュババババ!
斬撃は空気を切り裂き、レッドウルフの大半を葬った。
撃ち漏らした個体を処分し、一段落。
これを繰り返せば、Cランクへの昇級要件である100回の依頼達成はすぐに達成できそうだ。
「ユーキは凄いです。私も何か役に立てればいいんですけど……」
アレリアはいつものように褒めてくれたが、どこか元気がないようだった。
魔物を相手にしたことで、気分が悪くなったのだろうか。
ちょっと心配だな。1000体のレッドウルフを倒したら、今日のところは引き上げよう。
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