第20話:アレリアが可愛いすぎるんだが
チッ!
シーリは、大きく舌打ちする。
「そんなブスの方が私より良いってわけ!? そうなんでしょ! 目が腐ってるのね!」
「そんなブスって誰のことだ?」
「ふっ、そこの金髪のアホそうな女のことよ。ああ、可哀想な人……」
アレリアのことをブスでアホだと言いたいらしい。
シーリの言葉で、アレリアが萎縮してしまう。
俺のことだけならまだしも、アレリアを罵られたとなってはもう我慢できないな。
「他人を下げることで自分を上げるつもりだというなら、お察しだな。仮にお前がアレリアよりも見た目が優れていたとしても、品性がない女になんの魅力もない。ま、これは仮の話で見た目すらも遠く及ばないわけだが」
アレリアは、綺麗なだけじゃない。皇女に相応しい品性を備えている。
どこかの誰かみたいに容姿と身分にあぐらをかいていない。
「けっ、本音は分かってんのよ! そんなメスガキさっさと捨てちゃいなさいよ。ほら、私のおっぱいを触ればすぐに心変わりするわ♡」
シーリが、俺の手を強引にとり、胸に押し付けようとする。
……やれやれ、『バカは死ぬまで治らない』って話は本当だな。こいつの場合は死んでも治らなそうだが。
パシン!
俺はシーリの手を振り解き、その手を叩いた。
「痛っ……お、女に暴力振るうなんて酷いわ!」
「ああ、そうだな。俺も女に暴力は振るったことないんだ。だから、今も女に暴力は振るわなかった」
「……は? 意味わかんないんですけど」
「じゃあハッキリ言おうか。お前に女としての魅力はない。……いや、もはや女じゃない」
「…………!?」
「話は終わりだ。露骨で強引でしつこい振る舞いを見る限り、誰かに命令されたようだな。ファブリスに伝えておけ。次見つけたら殺してやるってな」
「……あ、……あ、……」
シーリは何も言い返せない。
声にならない声が出ようとして、途中で止まる。
蹲るシーリへの興味はない。
「アレリア、何をぼうっとしてるんだ? 帰るぞ」
俺はアレリアの手を取った。
◇
「あっ……あの! 本当にありがとうございます。ユーキ、私を庇ってくれて……」
宿に帰還した直後。
アレリアは俺に感謝の意を伝えてきた。
「何を言ってるんだ? 俺は庇ってなんかいないぞ」
「でも、シーリさんに酷いことを言われたのに何も言い返せなかった私の代わりに色々言ってくれて……」
「俺が言ったのは事実だけだ。明らかな事実を陳列するのは庇ったうちに入らないって俺は思ってるんだが」
「事実って……ってそんな大したことないですよ」
「まあ、出会った日はぶっ飛んだことを言うからとんでもないやつだと思ってたってのは正直なところだな」
帝国を抜け出して冒険者になって大変なことになったのに帰らないとか、既成事実を作ろうと提案したりとか。
でも、同棲するうちに、アレリアの魅力が伝わってきた。
アレリアには変な計算高さがない。
天然と言うと語弊があるが、ようするに純粋なのだ。
アレリアには、悪意がない。それでいてどこまでも好奇心旺盛で、型にはまらない。
「それと、内面だけじゃなくアレリアは見た目も綺麗だぞ。世界一かどうかはともかく、俺が今まで見た女性の中で一番可愛い」
「そ、そんなに褒められたの初めてです……。お世辞でも嬉しいです」
アレリアが顔を真っ赤にして、両手で顔を隠した。
事実なのだから恥ずかしがる必要なんてないのだが。
「アレリアは自信を持っていい。まあ、シーリみたいに傲慢にはなってほしくないけど、あまりにも鈍感なのは持たざる者にとって嫌味になるからな。あとお世辞じゃないぞ」
「自信……ですか」
「ま、アレリアなら引く手数多だろうから、そのうち自然と身に付く。今回のことは良い経験になったと思えばいい。シーリだって、アレリアが魅力的なことは分かってる。嫉妬ってやつだよ」
……多分な。
まさか、本当に自分が世界一美しくてアレリアが醜く見えていたというのなら、ちょっと病院に行った方がいい。
治るか分からないし医者が匙を投げるかもしれないが。
「わかりました。ユーキ、色々とありがとうございます。前向きになれそうです」
「元気が出たようで良かったよ。実は当初のプランでは美味しいご飯を食べようと思ってたんだが、今からでも行くか?」
「いえ、外で食べるご飯も美味しいですけど、ユーキとこの部屋で食べるご飯が一番美味しいです」
「そうか。なかなか自信がついてきていい感じだ」
「え?」
「ん? だっていつも食べてるご飯ってアレリアが作ってくれてるだろ? 俺がやれることって少ないし。ってことは料理の腕には自信があるってことじゃないか?」
「えーと……そういうことではなくユーキと一緒に作って一緒に食べるのが美味しいというか……いえ、なんでもないです聞かなかったことにしてください!」
何を焦ってるんだろう?
俺はアレリアを褒めているだけなのだが。
「それと、鈍感なのは嫌味になるってユーキの言葉。ユーキも気をつけてくださいね!」
「お、おう……分かった」
なんか、気に障ったのか……?
分かったとは言ったものの、まったく分からん。
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