第19話:女勇者から色仕掛けされたんだが
◇
翌日、俺とアレリアは王都の商業地区で装備店を訪れていた。
冒険者の装備はローブが主流。
長時間移動する冒険者にとっては、軽量で動きやすいわりにそれなりに防御力があるローブは使い勝手が良いのだ。
転生直後からローブを着ていたわけだが、毎日同じ服を着るというのも限界に来ている。
一着を洗濯している間に他の服がないと裸で過ごさなければならなくなるので、最低二着は必要なのだ。
それは俺だけじゃなく、アレリアも一緒。
着の身着のままで逃げ出してきたので、代わりを持っていない。
「アレリア、これいいんじゃないか?」
「は、恥ずかしいです……!」
「そうか? ピンクだし似合うと思ったんだが」
全身ピンクの女性らしいローブ。
これを着たアレリアはきっと可愛い。
「ユーキの服選びのセンスは壊滅的です……」
そこまで言うか……。
まあ、女性経験ゼロな俺にセンスを求められても困るのだが、モテ男たちは最初からセンスが良いのだろうか。
「私のローブよりもユーキのを先に決めましょう! あの黄金のローブはユーキにぴったりです!」
ええ……あれだけはぜぇぇぇぇったいにないだろ……。
黄金って趣味悪いし、どっかのお漏らし勇者みたいでかっこ悪すぎる。
「アレリアの服選びのセンスの無さは十分理解した。俺は勝手に決めさせてもらおう」
「そ、それなら私も勝手に決めますから!」
謎の対抗心からそれぞれが勝手に選ぶことになった。
俺は、黒いローブに目を止めた。
地味過ぎず、派手過ぎず、ちょうど良い塩梅だ。
それに、黒の剣士っていう響きはちょっとかっこいい。
よし、これに決めた!
俺が購入するローブを決めた後、すぐにアレリアのローブも決まった。
「私はこれにします。白いローブに赤いアクセントがとても合っています!」
「おおっ、なかなかいいじゃないか。凛々しい感じも似合いそうだ」
「ユーキも黒のローブはかっこいいです! あまり黒って似合う人いないんですけどユーキにはぴったりです!」
アレリアに褒められると本当に似合っているのかちょっと不安になるが、俺自身のセンスに反応したものだし、他にコレってものはなかった。
「よし、じゃあこれで決まりだな」
満足する買い物ができて良かった。
日本のアパレル店に比べればバリエーションは少ないが、異世界の——少なくとも王都の装備店は一つ一つのデザインが洗練されている。
普通の冒険者なら荷物が増えるから服の数は抑えたいところだろうが、俺はアイテムスロットというチートにも等しい無限収納庫を使える。
これからも気に入ったものがあれば買っておくとしよう。
◇
装備店を出た後は、アレリアと食事を摂ったり辺りをブラブラするというのが、今日一日のプラン。
だったのだが——
「あら、あなたはマツサキ・ユーキね! こんなところでバッタリ合うなんて偶然! 運命を感じちゃうわ!」
なぜか、女勇者がいた。
純白の杖を持っているのは勇者だけ。勇者で間違いない。
妙に身体のラインを強調するようなローブを纏っている。実用的ではなさそうだが。
そんなことはともかく、俺のリアル年齢はそれなりに高いせいか、嘘を嘘と見抜く力は相応に鍛えられている。
口調や顔の動き、声のトーンから、この女勇者が何か嘘をついていることは分かった。
「俺はあんたの名前を知らないわけだが」
「あら失礼。私、シーリ・ガルティエですわ。この通り、回復の勇者をやっていますの」
「なるほど、そうだったか。変な偶然もあるもんだな。じゃあファブリスに早く俺の悪評をどうにかしろと伝えておけ」
そう言って、俺はアレリアを連れて去ろうとする。
「お待ちになって。私、ユーキさんに一目惚れしてしまいましたの」
「……は?」
俺の頭の中は、大量のクエスチョンマークでいっぱいになった。
そもそも一目惚れの定義がよくわからない。つまりこいつは一目惚れした相手が酷い仕打ちをされるのを黙って、いやそれどころか一緒になって見ていたというのか。
仮に後になって惚れたのだとして、それを一目惚れとは言わないのだが。
色々と言いたいことはあるが、時間がもったいない。
結論から言ってしまおう。
「シーリが俺をどう想おうと勝手だが、あんたの想いには応えられない」
「……へえ。私の告白を無下にするとは良い度胸してるのね。何様?」
「急にどうした?」
「世界一美しい美貌を持ち、勇者パーティのナンバー2であるこの私の告白を拒否するなんて生意気よ!」
何言ってるんだこいつ。
頭おかしいんじゃないのか?
「……言ってることの意味が分からないんだが。仮に世界一美しくて勇者パーティのナンバー2だとして、なんでそれで相手を好きになるんだ? 少なくとも俺はそんなもの見ちゃいないが」
「……なっ……は!?」
「つまりお前は権威が好きってことなのか? 自分がそうだから、相手もそうだって思い込むのは、バカっていうんだぞ」
「わ、私が……このわたくしがバカですって!?」
シーリは、顔を真っ赤にして俺を睨んだ。
それに怯まず、俺は言葉を続ける。
「これ以上話している時間が無駄でしかないんだが、……そろそろ帰ってくれないか? どうせここに来たのも偶然じゃないんだろ」
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