第15話:勇者が苦戦してたんだが
〜勇者パーティ〜
その頃、七人の勇者はカルロン森林の深部まで足を運んでいた。
「ねえダーリン?」
純白の杖を持った回復の勇者——シーリ・ガルティエが、隣を歩く剣の勇者ファブリスへ声をかけた。
「なんだいハニー?」
「本当に王都のこんな近くに『水眼の翼竜』がいると思う?」
彼ら勇者は、王の命を受けて訪れている。
およそ千年前に致命傷を負った翼竜は、自らを封印し、千年後に完全な状態で復活する——その復活のタイミングが今であるという話だった。
まともに復活してしまえば、王都が甚大な被害を被る恐れがある。
復活したばかりの翼竜は混乱しているはず。その隙に討伐せよとのことだった。
「セルベール王自身も本気で信じてたわけじゃなかっただろ。まあ、本当に復活したとしても、俺の最強の剣で一撃って葬ってやる。シーリには傷一つ負わせないよ♡」
「あらっ! さすがファブリスね。頼りにしているわ♡」
ファブリスとシーリの薄寒い会話が繰り広げられる中、他の勇者たちは気にも留めず各々がぺちゃくちゃと無駄な話を繰り広げていた。
彼らは個の強さを信じており、連携しようなどという気はないのだ。
「この祠ね! あら何にもないじゃない。ぷぷぷ、ファブリスを恐れたのかしら?」
「さすがはシーリだ。目の付け所が鋭い」
「そうでもないわ。ファブリスのことを世界一よく知っているから言えるの♡」
そんな中身のない会話を続けていると、祠からパキッという音が漏れ出した。
「なんの音かしら?」
「気のせいだろ。まさか本当に翼竜なんているわけ……」
バキバキバキバキ!
祠に猛烈な勢いで亀裂が入っていき、そこから黒い光が漏れ出す。
そして、その黒い光は雨雲となり、次々と雷を迸らせる。
落雷は連続して祠に当たり続け、そして——
「……ひっ、そんな!」
巨大な青色の翼竜が姿を現したのだった。
「なん……だと? い、いや待て! 大丈夫だ。俺たちは勇者なんだぞ! ちゃんと戦えば負けるはずがない。よし、カタン、あの竜の攻撃を防ぐんだ!」
ファブリスが、盾の勇者カタンに指示を出す。
「は? あんなの無理だろ! 俺を殺す気か! 行きたいならてめえだけでいきやがれ! 俺は逃げる」
「んだと? 盾の勇者は硬いのが取り柄なんだろうが! 脳筋は脳筋らしく前に出やがれ!」
仲間割れをしている間にも、状況は悪くなっていく。
『水眼の翼竜』が、鮮やかな蒼のブレスを吐いた。
直撃した部分は、凄まじい衝撃に襲われていく。
巨大な老樹も、その辺の魔物も、ブレスに触れた瞬間に消滅した。
「う、うあああああああ!!!!」
ファブリスは叫んだ。
死ぬ。逃げられない。確実に死ぬ。
それだけが頭によぎる。
逃げなければ。誰を犠牲にしようとも、絶対に自分だけは生き残りたい——
そんなファブリスの真横に、竜のブレスが直撃する。
爆風に吹き飛ばされ、宙を舞った。
十メートル以上飛ばされ、身体が動かない。
「ほ、骨が折れた……のか?」
動かそうとしても、足に力が入らなかった。
そして変な方向に曲がってしまっている。
『水眼の翼竜』と、目が合う。
「く、くるな……くるな……くるな……くるなああああああ!!!!」
〜〜〜
「なんかすごい衝撃だったな。……で、あそこにいるのは……勇者か?」
なぜ勇者パーティがこんなところにいるのか甚だ疑問なのだが、なぜかファブリス率いる勇者パーティが勢ぞろいしていた。
しかし全員が何かしらの怪我をしているらしい。
そして、上空を見上げると、巨大なドラゴンの姿。
「ああ……なるほど」
「あれはヤバイです! ユーキ、今すぐ逃げましょう!」
「そうだな。……あれは関わっちゃいけないやつな気がする」
そうして、来た道を戻ろうとする俺たちだったのが——
「そ、そこにいるのはマツサキ・ユーキか! いや、そうじゃなくてもいい! 誰でもいい! 俺を、俺を助けろ!」
「あいつ……余計なことを……」
ファブリスが俺たちに話しかけるのを、ドラゴンは見逃さなかった。
ガルルルル……。
俺たちに向けて、ブレスが飛んでくる。
結界魔法のおかげで被害はゼロだったが——
「やれやれ……まいったな。壁が破られた」
再構築する間も無く、二発目が飛んでくる。
「くっ、アレリア! ちょっと離れていてくれ!」
俺は万が一のことを考え、アレリアを逃す。
そして、魔剣ベルセルクでブレスを斬った——
ガルルルル……?
まさか、敵のドラゴンもブレスを剣で斬られることを想定していなかったのか、困惑しているようだった。
だが、それも無理はない。
何を隠そう、俺も斬れるとは思っていなかった。
ブレスは飛んでこなくなり、しばしの静止状態になる。
それから、信じられないことに竜が喋った。
「ガルルル……もしかして、賢者様……?」
「……そうだが?」
ファブリスの様子を確認する。
蒼いドラゴンと、俺たちのやりとりを、頭を抱えて眺めていた。
こうなるのはある意味普通と言えるだろう。
しかし、普通とは言えない光景もあった。
ファブリスの股間が、水に濡れたかのごとく湿っていたのだ。
——ようするに、あまりの恐怖に漏らしたらしかった。
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