第12話:適度な緊張緩和も必要だと思うんだが

「最終試験のルールは、ここでキャンプを張って襲撃者に対する対応で評価されます。担当官はCランク以上の複数の冒険者なので、撃退は不可能だと考えてください……まあ、ユーキさんは特別かもしれませんが」


「いやいや、昨日のは運もあったしな。油断せずに臨むよ」


 中途半端な強さを身につけて慢心した時が一番危ない。最後まで気を抜かず最適解で試験を突破するつもりだ。


「頑張ってください。試験時間は最長で明日の早朝6時まで。いつ襲撃者は襲ってくるかわかりません。——現実のキャンプでも、魔物は突然襲ってくるので、この試験に合格すれば立派な冒険者です」


「なるほど、ありがとうな」


「それでは、私はこの辺で失礼します。試験が終わった頃に結果をお伝えしますので」


 そう言って、受付嬢の女は去っていく。


 王都の外れにあるこのキャンプ場は、人口の森の中を開拓したような感じになっており、見通しが非常に悪い。

 襲撃者は陸から来るか、空から来るか——見当もつかない。


 地下から来る可能性も考慮した方が良いかもしれない。

 今回で合格しないと、資金が底を尽きそうなので、気は抜けない。


 念には念を入れて——


 『結界魔法Lv2』。


 スキルツリーを開くと、やっぱりSPを使うことができた。

 Lv1→Lv2にはSP1、Lv2→Lv3にはSP2というような感じで、必要SPは増えていく。


 SPさえあれば無限にレベルが上がるのかというとそんなことはなく、俺自身のキャラクターレベルも上がらないと上がらないみたいだ。


 今のところ、レベル1の俺が結界魔法でできる限界はLv2まで。


 結界魔法Lv2になると、結界が破壊された時に気付けるようになった。ついでに障壁の強度も上がっている。


 さて、焚き火でも囲むとしよう。

 キャンプ場に置かれた焚き火用の場所は、あらかじめ火が付けられていた。

 そこに薪を追加する。


 『アイテムスロット』に入れておいた生魚を炙り、美味しくいただこうと思う。

 襲撃者(担当官)がいつ来てくれるのかわからない以上は、ずっと緊張しているわけにもいかない。


 いざ戦おうとしたときに、疲れ切っていてはベストパフォーマンスを出せない。

 適度なリラックスも必要だ。




 〜暗殺部隊〜


 暗殺部隊隊長の男は、時計を見た。

 4人の隊員が揃っていることを確認してから、口を開いた。


「——よし、時間だ。任務に移るぞ」


「ターゲットは冒険者志望の少年か。……気の毒に」


 隊員の一人がこぼした言葉に、


「同情は不要だ。ターゲットは王国からマークされている。これはあくまで噂だが、王国に重大な裏切りを働いたと言われている。ここからは俺の想像だが、王国が先日勇者召喚に失敗していたが、その原因を引き起こした張本人ではないかと睨んでいる」


 閉鎖的な暗殺部隊には、情報統制がなされている。

 だから、民が普通に知るようなことであっても噂を頼りに多少捻じ曲がった事実が広まることもあるのだ。


「15やそこらの少年にそんなことができるのか」


「この任務はセルベール王自らが命じた。そういうことなんだろう」


「なるほど……油断大敵ということか」


「そういうことだ。心してかかれ! 決して侮るな! よし、では突撃する——」


 こうして、暗殺部隊の任務は始まった。

 だが——


「隊長! 緊急事態です!」


「どうした! ターゲットに気付かれたか!?」


「いえ、見えない壁が一帯に張られていて、突撃できないのです!」


 隊長は、障壁にナイフをぶつける。


 キン!


 何もないところなのに、何かに弾かれたようにナイフは入らなかった。

 まるでそこに本当の壁があるかのように——


「これは……結界魔法か……?」


「いやそんなまさか……失われた古代魔法でしょう?」


「じゃあこれをどう説明する?」


「それは……」


「結界魔法であるという前提で作戦を建て直す! 結界魔法は一定以上の攻撃力で打ち破ることができる。剣や普通の魔法では不可能だと思ってくれ」


「作戦を中止にしなくてよろしいのですか!?」


 暗殺部隊は、不測の事態が起こったときには即時撤退が原則だ。

 しかし、隊長は首を振った。


「これは国王からの命令だ。撤退は許されん。突撃するしかない。——いかなる手を使おうとも、任務を遂行する」


 隊員たちは、「いかなる手」という言葉に反応する。


「では、アレを使うのですか?」


「致し方ないだろう。国王には事後承認を得る。魔法兵器を用意しろ」


「は、はい! わかりました!」


 魔法兵器——人間が放つ魔法を圧倒する現代兵器。

 小さな村くらいなら一撃で吹き飛ばせる代物だ。

 バズーカーのような形をしている。


「ターゲットは焚き火の近くにいるはずだ。そこに打ち込め」


「わかりました!」


 隊員たちは、ユーキのいる場所へと狙いを定め、魔法兵器の準備を着々と進めていく。


「隊長、全ての準備が整いました!」


「よくやった。では、60秒後に発射されるようセットしておけ。我々は一時待避する」


 攻撃力が高すぎる兵器のため、大木が倒壊して怪我をするなどのリスクがある。

 そのため、安全な場所に待避してから、万が一ターゲットが生き残っていた場合には混乱の隙に殺害することになっている。


「「「「「はい!」」」」


 暗殺部隊が、全員離れた場所に移動する。

 移動が終わったタイミングで、自動的に魔法兵器から弾丸が発射された——


 ドゴオオオオォォォォン!


 砂埃が舞い、視界が見えなくなるほどの衝撃。

 暗殺部隊たちが、確認のため結界魔法の場所まで戻っていく。


「やったか……!?」


「隊長、ダメです! 結界魔法はビクともしていません!」


「なんだと……」

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