第10話:結界魔法が便利そうなんだが
今度は結界魔法か。
字面だけを見ると何に使うのか分らないが——まあ、使ってみれば分かることだ。
結界魔法を使用する。
——が、何も変化はなさそうだった。
発動に失敗したのか?
もう一度使用しようとしたその時。
「ユーキ実技試験が一瞬で終わるなんてさすがです!」
「ああ、お待たせアレリア」
「——って痛っ! 壁なんてないはずなのに!?」
「え?」
アレリアは何かにぶつかったかのような動作で跳ね返された。
動きから推測すると、何か壁のようなものがあるらしい。
そうか、これが結界魔法か。
使い方によってはアリだが、仲間が近づけないとなると不便だな。
《『結界魔法』には合言葉を設定することができます》
合言葉……これを設定すれば仲間が自由に入れるようになるということだろうか?
よし、じゃあ合言葉は『ヒラケゴマ』にしておこう。
「アレリア、ヒラケゴマって言ってみてくれ」
「え? ヒラケゴマ……って、あれ!? 壁が消えました!」
成功だ。
《合言葉は相手が知っていればよく、詠唱する必要はありません》
一回教えておけば次からは自動的に解除されるというわけか。
「長い間待たせてしまったな。そろそろ戻ろうか」
俺はアレリアの頭をポンと叩いた。
比較的短時間で終わったとはいえ、この間アレリアは何も言わず見ていてくれた。宿で待たせていても良かったが、絶対安心というわけじゃないしな……。
「……はぅ……大丈夫ですっ」
「どうした? 熱があるのか?」
「ありません! 大丈夫ですっ!」
「そうか、ならいいんだが」
◇
宿に戻ってきた。
ひとまず汗を流すためにシャワーを浴びている。
レグルスと戦って、ふと思ったことがある。
もしかして——案外『賢者』は弱くないんじゃないか?
ゲームで強かった賢者は、異世界でも通用するのかもしれない。
勇者並みとまではいかなくても、この世界で冒険者として生きていく上で十分な強さはあるんじゃないだろうか。
ひとまず、今のスキルを整理しておこう。
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名前:松崎祐樹 Lv.1
クラス:賢者
スキル:『システム操作』『神の加護』『気候操作』『大陸共通語』『結界魔法』
HP:97795/97795
MP:216950/216987
————————————————————————
シャワーが終わったらまだ調べていない『システム操作』を確かめておきたい。
他のスキルはかなり有用だ。
しかし『システム操作』だけは字面での意味のわからなさからまだ試せていなかった。
「ん、MPがちょっと減ってるな……もしかして、アレか」
魔剣ベルセルクを持っているとき、実は魔力検査で水晶に触ったのと同じ感覚を覚えていた。
もしかすると、使用者のMPを吸い取るような剣なのかもしれない。
……と言っても、吸い取られるMPは極少量なので気になるほどではないが。
この剣が『魔剣』と呼ばれる意味がわかった気がする。
シャワーを終えて、着替え終わる。
さすがに二日も着ていると、他にも服が欲しくなるな……。
汚れとか、臭いとかあるしな。
初報酬を得られたら最優先で服を買おう。……そうしよう。
「アレリ……っていないんだったな」
宿には、今俺しかいない。
アレリアは食料の買い出しに行ったのだ。
俺もついていくと行ったのだが、「ユーキは疲れているから」と言って一人で行ってしまった。
正確には、俺とアレリアは一緒に行動していない。アレリアと俺の行動がたまたま一致しているという体だから、止めることがおかしいのだが——
やっぱり心配になるよな。
あと少しして帰ってこなかったら探しにいくことにしよう。
俺がたまたま散歩していたらアレリアを発見したということなら問題ない。
……などと思っていたが、心配は杞憂だった。
「ユーキ、戻りました!」
元気の良い声で戻ってきたのだった。
さて、これで安心して『システム操作』を試せる。
ほっと胸を撫で下ろした。
「おかえり、アレリア」
〜王城〜
「陛下、ご報告に参りました」
「なんじゃ、定時連絡には早いが」
「マツサキ・ユーキの件なのですが」
「またあのガキか……。死体でも見つかったか?」
ギルドには手を回して冒険者にはなれないようにしておいた。
処刑するとなれば相応の理由を作る必要がある。勝手に死んでくれれば処分が楽だ——そう思っていた。
「それが、魔力検査と実技試験を突破したようです……。実技試験ではレグルスを相手に完勝したとの報告がありました。明日の最終試験をクリアすれば正式に冒険者になると思われます」
「なんじゃと!? あのガキ、そんなにデキるやつじゃったのか!」
「いかがいたしましょう……」
「認めん……! ワシは認めんぞ! 万が一、何かの間違いで戦力になる人材にあのような仕打ちをしたことが民に知れれば、ワシの威厳はどうなる!」
「…………」
「ならば、やることは一つじゃろう。出せ、例の暗殺部隊」
「しかし、表立って動くわけには……」
衛兵は、困惑してしまう。
ユーキは、何ら罪を犯したわけではない。王国に敵対しているわけでもない。
ただの一般人を相手に暗殺部隊を投入するなど前代未聞だ。
ちなみに、暗殺部隊とは対勇者用に編成した騎士団の特殊部隊だ。
強力な力を持った勇者が反旗を翻した時に対抗できるよう、人体改造した強力な部隊を用意したのだ。
もちろん、人体改造は明確に国際法違反なので極秘に進められてきた。
今のところ勇者は反抗していないので、暗殺部隊は文字通り暗殺任務を任せている。
「最終試験の担当官にすれば問題なかろう。ワシのハンコ一つでどうにでもなる」
「確かに、試験中の死亡事例はありますが……」
「やれ。わかったな?」
「はっ仰せの通りに!」
〜〜〜
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