第9話:手加減を間違えたんだが
二次試験に当たる実技試験は、すぐに執り行われることとなった——
相手となるのは、王都ではかなり名の知れたA級冒険者らしい。
実技試験には、C級以上の冒険者が務める規則になっているとのことだが、A級冒険者が務めるのは異例とのこと。
合格の条件は、担当官がEランク冒険者相当であると認めること。
「まさかお忙しいレグルス様が担当官に立候補していただけるなんて……!」
「冒険者として——いや、王国民としてこのような者には身の程を分らせてやらんといかんのだ」
年齢は二十代後半くらい。巨大な剣を背中に担いでいる。
「貴様が勇者、そして我らの王までも欺いたマツサキ・ユーキか。王の大いなる慈愛により死罪を免れた身分であるにもかかわらず、冒険者になろうなどという図太さには敬意を表しよう」
「ありがとうって言えばいいのか?」
「今のは皮肉だ。貴様は頭も弱いらしいな」
軽口をたたいてはいるが、内心はヒヤヒヤものだ。背筋からは嫌な汗が流れている。
こうして弱く見せ、油断を誘う作戦だ。
「いつでもかかってこい! 受験者側の攻撃から試験開始だ。そんな細い剣で俺の反撃を凌げるわけないがな!」
5メートル離れた場所からレグルスが説明してきた。
魔法と剣。どちらで戦ってもいいし、両方使っても構わないという規則。
俺は攻撃魔法を知らないので、昨日手に入れたばかりの魔剣ベルセルクを使うことにした。
まずは、『神の加護』を自分に付与。
それから、呼吸に合わせて踏み込む。
剣の上級者相手に下手なフェイントをかけても見抜かれる。なら、一発勝負を狙うしかない。
「うおおおおお————」
レグルスは、まだ動かない。
くそ、これがAランク冒険者の余裕ってやつかよ!
レグルスとの距離が1メートルを切った。
まだ動かない——
この距離からでも間に合うとは、格が違う……。
俺は、勝負を諦めかけた。
とはいえ、一応決まり上は勝つ必要はないのだ。俺を心から嫌うレグルスが認めるかどうかは別として。
俺ができる限りの、全力を打ち込む。
「なっ……急に現れただと!?」
レグルスは俺を撹乱しようとしているのか、突然意味の分らないことを言った。
だが、集中している俺はこんなトラップには引っかからない。
魔剣を、レグルスの剣を突き上げるように振り上げた。
剣と剣が衝突し、金属音が響く。
カキン!
レグルスの手から剣が離れた。飛翔した剣は、ヒビが入っていき、空中で粉々になってしまう。
なるほど、俺程度の相手なら剣がなくてもなんとかなるってことかよ!
「な、何者だ貴様は!? なんだその力は!」
「それは俺が弱いって意味だよな? もうちょっとはっきり言ったらどうなんだよ!」
「ひ、ひやああああああ」
剣を持たない相手に、剣で斬りかかることはできない。
いくら格上であろうと、無残な負けをしようとやっちゃいけないことだと思う。
俺はレグルスの背後に回り込み、拳で背中を殴打する。
レグルスは俺の攻撃を避けることなく壁に向かって突っ込んだ。
壁にヒビが入るほどの威力で衝突したレグルス。
「う、うぅ……。ま、まいった……」
なぜか、虫の息だった。
「レ、レグルス様戦闘不能です! そこまで!」
審判をしていたさっきの受付嬢が、試験終了を告げる。
相手はAランク冒険者だと聞いていたのだが、その真価を見せぬまま勝ってしまった。
「レグルス様大丈夫ですか……!?」
「大丈夫だ……それより、試験の結果だが——合格だ。文句の付けようがない。……ごほっ」
レグルスの表情は険しい。
だが、試験開始前から、試験後でレグルスの俺を見る目は変わっているように感じた。
「な、なぜ貴様……いや、ユーキ殿のような強者を王は追い出したのだ……? たとえ勇者でなくとも、魔王を討つためなら手を借りれば良いのではないか……! こんなこと俺の口から言いたくはなかったが、王の目は節穴か!」
レグルスは、満身創痍でよろよろになりながらも、立ち上がり、俺の前に右手を差し出してきた。
「俺の見識の狭さ。いや——世界の広さを感じた。非礼を詫びたい」
俺は、レグルスの手をとった。
「どんな話を聞いたのか分からないが、多分、かなり偏った話を聞かされている。分かってくれればそれでいいんだ」
「……俺は、王国ではそれなりに力がある。何かあれば相談するといい。力になれるだろ……う……」
ガタッ。
レグルスは、脱力し、気を失った。
単に眠っているだけのようなので、しばらくすれば回復するだろう。
「驚きました。……魔力量もそうですが、まさかレグルス様をも倒してしまうなんて……!」
「まあ不意打ちみたいなもんだよ」
「レグルス様を不意打ちなんて普通できませんよ。王国の冒険者の中で最強と言われているんですから。もう試験は合格したも同然ですよ!」
「そんなもんなのか。……そういえば、最終試験は何をやるんだ?」
「実戦に準ずる試験として、キャンプでの夜戦をしていただきます。試験官が複数人必要なので、少し時間が空いてしまいますが——そうですね、明日の夜には準備できるでしょう」
「なるほど、分かった。それで、レグルスは……」
「あっ、レグルス様でしたらこちらで介抱して医者に診せておくので、ユーキさんは戻られて大丈夫ですよ」
「そうか、助かる」
実技試験を無事に突破できて、一安心だ。
さて、明日の最終試験までひとときだけ気を抜くとしよう。
《新スキル『結界魔法』を獲得しました!》
また、謎の声が聞こえてきた。
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