第8話:魔力が測れないらしいんだが
◇
冒険者ギルドについた。
ゲームで見たことのあるような、イメージ通りの施設という感じだ。
左翼には大量の依頼書が貼られた掲示板。右翼には会議場所としても使えそうな酒場。奥には受付があった。
「新規入会したいんだが、ここでいいのか?」
「え、はい……あっ」
何かに気づいたように俺をジロジロと見る受付嬢。
「勇者じゃなかったら何か問題か?」
「いえ、そういうことでは……。新規入会自体は試験に合格すれば可能です。でも、難しいですよ?」
「命懸けの仕事だからな。試験が難しいのは承知の上だ」
「わかりました。では、試験は今からでよろしいですか?」
「話が早くて助かる。それで頼む」
「では、最初に魔力検査。次に実技試験。そして最終試験があります。まずは魔力検査をするので、こちらへ来てください」
受付嬢に連れていかれ、奥の部屋に入った。
部屋には様々な器具が置いてあった。
「ここに座ってください」
目の前には、血圧を測る機械みたいなやつが置いてあった。
健康診断でもするつもりだろうか。
「ここに腕を通してください。ギュっと締まるので、それで魔力量を測定します」
「分かった」
これは魔力量を測定する機械らしい。
魔力量は多分、MPのことだ。MPならステータスから確認できるので既に量なんて知っているのだが……あっ、他人に見せられないんじゃ試験にならないか。
腕に圧力がかかっていく。
「えっ? エラー……どうして」
受付嬢が首を傾げる。
「もう一度初めからやり直します」
とのことで、再検査となった。
だが——
「ダメです! やっぱり新手の魔道具は信用できませんね。水晶で検査するので、こちらに移動してください」
受付嬢が指差すのは、部屋の隅にある大きな透明の水晶。他の器具は全て移動できるようになっていたが、この水晶だけは部屋に固定されているようだった。
言われた通りに大きな透明の水晶の前に立つ。
「どうすればいいんだ?」
「水晶に触ってください。魔道具のように正確な数値は測定できませんが、色の変化で大体わかります」
「なるほど」
デジタルとアナログの違いみたいなもんだろうな。デジタルは調子が悪いと使い物にならないが、アナログは多少の融通が利く。
水晶に触れる。
スキルを使ったときのような、少しMPが吸われるような感覚があった。
透明だった水晶はジワジワと青く、次に青紫色に変化していく——
「えっえっ? こんなはずは……」
「なんか熱いんだが……これ大丈夫か?」
「マニュアルにないのでわかりません!」
使えない職員だなぁ。
ギルド職員って異世界の公務員みたいなものだろうか。
ピキピキ……。
「水晶にヒビが入ってるが、本当に大丈夫なんだよな?」
「た、多分……。色の変化が続いているので、止まるまで様子を見ます」
ビキビキビキビキ……。
「さっきより音が大きくなってるぞ。割れたりしないんだよな?」
「前例がありません!」
パリンッ!
「おい、割れたぞ……!」
「割れた場合は魔力量超過——水晶の測定限界を超えたことになります! この水晶の測定限界は10万MPのはず……す、すごい……! 本当に一般人……?」
ステータスで確認できた正確なMPは21万くらい。この水晶性能悪いな……。
っていうか一応測定器具なら高いものじゃないのか……?
いくらマニュアルとはいえ壊れると困るだろうに。もうちょっと柔軟になっても良いんじゃないか?
「魔力量2万以上なので文句なしの合格です。まさか合格するとは思いませんでした!」
感心するように言う受付嬢。初対面の時とは見る目が違う気がする。
「えっ? 1万じゃないんですか?」
ほっと胸を撫で下ろしていると、後ろで見学していたアレリアが受付嬢に質問した。
「ええ。一昨日まで1万が合格点でしたが、昨日から2万になったようですね」
「1万が2万って、そんな急に……。熟練の冒険者でも厳しいんじゃないですか? っていうか合格できる人いるんですか?」
そういえば、アレリアのMPは15000くらいだっけ。この世界の平均とかってそんな感じなのだろうか。
そう考えればいきなり2倍の引き上げは厳しいよな。
「えっと……これ言っていいかわからないんですけど、昨日王国から通達がありまして」
「通達?」
「はい。滅多にあることじゃないんですけど……っていうか私も初めての経験だったんですけど」
昨日といえば俺が異世界に来た日か。結果として合格できたから良かったものの、なかなか運が悪いな。
「通達の内容は、『冒険者ギルドにおいて、新規入会試験の魔力検査合格点を1万から2万に変更することを命ずる。ただし、マツサキ・ユーキ以外の者を除く。即日施行せよ』とのことでした」
「それって……ユーキ一人のためだけにルールを捻じ曲げたってことじゃないですか!」
「さすがに……ちょっとこれは酷いな」
完全に俺を蹴落とすためだけのルール改正だった。
常識的な数字での変更とはいえ、俺だけ差別されているようで気分が悪い。
この感じだと、あと2回ある試験——実技試験と最終試験は油断できなさそうだ。
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