第7話:異世界語がスラスラ読めるんだが
《新スキル『大陸共通語』を習得しました!》
気持ちよく眠っていると、例の機械音声で叩き起こされた。
今度はなんだ? 大陸共通語……?
ふと、部屋に貼られている注意書きの張り紙に目が止まった。
「読める……」
日本語でも英語でもない文字がスラスラと読めるようになった。
ネイティブとまではいかないが、何が書かれているのか理解できるし、なんなら書くこともできるだろう。
一度も勉強したわけじゃないのに。
二度も経験すると、新スキルを覚えるタイミングに少し特徴があることに気づいた。
「俺になんらかの変化があった時……か?」
一度目はアレリアが仲間になった時。二度目は強いて言えば異世界語がなんとなく理解できそうになっていた時。話せれば文字を覚えるのは簡単だから一日でボンヤリ読めるようになっていた。
仮説に過ぎないが、大外れしていることもない気がする。
さて、今日は朝イチでギルドに行って試験を受けるんだったな。
むにゅ。
ん?
なんか柔らかいものを鷲掴みにしているような気がするが、なんだろう。
……おおよそ見当はつくのだが、どうしても現実を直視したくない。そういう時ってあるだろう?
「ユーキの……が……あったかいのぉ……」
「誤解を招く言い方をするな! これは手だ」
「どうしてユーキの手が私の胸に……?」
「俺が聞きたい。昨日はソファーで寝てただろ? なんでベッドにいるんだ?」
アレリアとは寝具が同じにならないよう、日替わりでベッドとソファーを使う約束をしていた。初日はアレリアがソファーで寝て、俺はベッドで寝ることになっていた。
「やっぱりベッドで寝ないと落ち着かないのです」
「明日はソファーじゃないと落ち着かないとか言い出さないだろうな……」
だいたいわかってきたぞ。
アレリアは俺をおちょくって楽しんでいるのだ。
俺が困る様子がさぞかし楽しいのだろう。
この辺でちょっと改めさせないとな。
「ふっ、そうかもしれませんね」
「そっちがその気なら、俺だって手を出すぞ?」
「て、手を……? どこまで……?」
「さあどこまでだろうな? 最後までやっちゃうかもしれないぞ?」
「さ、最後まで……」
恥ずかしそうに赤面するアレリア。
ここまで言われると思っていなかったのか、俯いてしまった。
ちょっとやり過ぎたかな?
でも、これで過度な挑発は減ってくれそうだ。
「ユ、ユーキがその気なら、私はいつでも受け入れます!」
……と思っていた時期が俺にもありました。
さて、この問題はまた後で考えるとしよう……。
◇
「なんか、私たち見られてません?」
ギルドへ向かう最中、昨日とは明らかに違う異質な視線が俺を刺していた。
「俺たちじゃなくて、俺を見てるんだろうな」
「ユーキ、何かしたのですか?」
「俺が何かしたというよりは、された側だな」
原因は分かっている。
勇者召喚で不本意にも俺がこの世界に呼ばれた。
それを見た王や勇者たちは、かなり落胆していた。
その情報はニュースとなってすぐに国中に広まってしまう。
情報が出回るまでにはタイムラグがあるから、朝の新聞か何かで記事を読んだのだろう。それも、写真付きとかで。
だから今日になってから注目を集める形になってしまった。
「どうせ、ニュースの内容は勇者が勇者じゃなかったとかそんなところだろう」
「勇者って、そういえばオズワルド王国が新しい勇者を召喚するって噂がありました! 確か、昨日ですよね……?」
「そう、それで召喚されたのが俺だ」
「ユーキは勇者だったのですか!?」
「勇者じゃなかったから追い出されたんだ」
俺は、アレリアにステータスを見せる。
『勇者』ではなく、『賢者』と書かれたステータスを。
そして、事情をかいつまんで話した。
「そんなことがあったのですか……」
「アレリアも失望したか? 俺が勇者として召喚されたのに、勇者じゃなくて」
「どうして私が失望するんですか?」
「いや、……みんな俺をゴミみたいに見てたしな」
「私はユーキが勇者じゃなくて良かったです。もしユーキが勇者だったら、こうして一緒に歩くこともなかったし、今頃檻に閉じ込められて父に迷惑をかけていました」
確かに、それはそうだな。
何の因果なのか、俺は勇者じゃなかったおかげでアレリアと出会うことができた。
アレリアは個性的だし色々と悩ませてくれる子だが、いつしか一人で異世界に飛び込み、直後に追い出された俺の心の癒しになっている部分がある。
「そうか、そう言ってくれると嬉しいよ」
「それと、オズワルドの国王は勇者召喚の目的を魔王討伐としていますが、真の目的は勇者の軍事利用です。オズワルド以外の——例えば私の故郷の帝国では有名な話です。ユーキがあの国王の駒にされるなんて耐えられません」
なるほど、そうだったのか。
勇者がどれほど強いのかわからないが、一応は魔王討伐のために召喚され、あれだけの特別待遇を受けているということは、想像を絶する強さなのだろう。
その戦力を現状は一国だけで保有しているのだとすれば、確かに手に余る。
帝国の皇女を拉致し、交渉カードにしようとした国王ならそんなことを考えても不思議ではない。
「確かに、あの国王の駒になっていたと考えると気分が悪くなるな。本当、追い出されて良かったよ」
「前向きなユーキは素敵です! 私、どこまでもついていきます!」
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