第4話:新しい魔法を覚えたんだが

「それは本当か……? 王に売られるって」


「ユーキが助けてくれたから良かったけど、確かに話していたのを聞きました!」


 とんでもない王だな。

 俺だってあのおっさんに言いたいことは山ほどあるが、ここまで卑劣なことをするやつだとは思わなかった。

 人を——ましてや皇帝の娘をネタに他国をゆするなどまともな国のやることではない。


「なおさらこのまま放っておくわけにはいかなくなったな。俺一人で守ってやれるかわからない。だけどできる限りの協力はするよ」


 アレリアが心配だし、あの下劣なおっさんの思い通りに事が進むのは看過できない。


「ユーキが守ってくれるなら安心! 嬉しい!」


 アレリアが嬉しそうに俺の胸に飛び込んでスリスリしてきた。

 かわいい。


 こうして、俺はアレリアと行動を共にすることになった。


 《新スキル『気候操作』を獲得しました》


 突然、頭の中で機械音声のような声が流れた。

 『気候操作』……?


「ステータス・オープン」


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 名前:松崎祐樹 Lv.1

 クラス:賢者

 スキル:『システム操作』『神の加護』『気候操作』

 HP:97701/97795

 MP:216987/216987

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 確かに増えている。

 名前からして天気を自由に変えられるとかそういう感じなのだろうか?

 パーティで動くとなると天気に左右されることもあるだろうし、あると便利そうだ。


 さらに、『パーティ』という言葉を意識した瞬間——

 視界左上に、アレリアの名前とレベル、そしてHPとMPが表示された。


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 名前:アレリア・ヴィラーズ Lv.3

 HP:10451/10451

 MP:15632/15632

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 便利だけど、なんかゲームみたいだな……。


「どうしたんですか? 急にステータスなんか見て」


「左上に変なバーとか見えないか?」


「……? 見えないです」


「そうか、ならいいんだ。なんでもない」


 どうやら、この奇妙なものが見えるのは俺だけらしい。

 アレリアは不思議そうな表情を見せたが、すぐに興味をなくしたようで、それよりも重要かつ緊急的なことを思い出したようだ。


「私、お腹が減りました。ご飯を食べませんか? 昼時ですし」


「俺も腹減ったんだけど、一文無しなんだ。まずは仕事を見つけたいんだが」


「お金なら私持ってるので大丈夫ですよ!」


「盗賊に奪われなかったのか?」


「ほとんど奪われましたけど、冒険者は少し隠し持っておくものなのです。常識ですよね?」


 アレリアはポケットから小銭を取り出すかのような動作で自然に胸の谷間から金貨を5枚取り出した。

 銅貨の多分何倍も価値があるだろう金貨を持っていることにも驚いたが、俺の注目は別のところに向いていた。


 金貨5枚も入る谷間ってどんだけデカいんだよ……。


「さすがだな……」


「でしょ? ここに隠してる人少ないんですけどね!」


 多分、隠そうとしても隠せない人の方が多いんだろうな。


「では早速食べにいきましょう! 私どこにお店あるのか知らないですけど」


「俺が案内しよう。実際行ったわけじゃないが、口コミで良さそうな店なら知ってる」


 さっき城下町を散策していた時、耳を澄ませて色々と情報収集していた。

 その中で、安くて美味しい食堂を偶然知ったのだ。




 〜王城〜


 その頃、王城では混乱が起こっていた。


「陛下、アレリア・ヴィラーズが何者かに拉致されました!」


「なんだと!? どこで誰に襲われたのだ! 腕利きの盗賊ではなかったのか!?」


「それが、目撃者によれば盗賊は瞬殺だったと……。犯人は、盗賊から聞き出した特徴を整理すると……ありえない話だと思うのですが……」


「なんじゃ、はっきりせい!」


「それが……先ほど追い出したマツサキ・ユーキではないかと……」


「バカ者! そんなわけなかろう!」


「も、申し訳ございません! 改めて見直します!」


「うむ、そうしろ。早く犯人を見つけてアレリア・ヴィラーズを取り戻すのだ。わかったな?」


「はっ! 仰せのままに」


 衛兵が部屋を出た後、国王——セルベール・オズワルドは、頭を抱えた。

 盗賊から隣国ヴィラーズ帝国の第三皇女を買わないか? と持ちかけられたとき、本人であると確信してすぐに提案を受けた。


 皇帝が子女を溺愛しているのは有名な話だったからだ。第三皇女とはいえ、娘をネタにできれば外交上有利に取引できる。


 ついさっきまでそう思っていたのだが、状況は一変してしまった。

 もし、アレリアが帝国に無事に戻ってしまえば、皇帝は誰に掴まっていたのか徹底的に調べる。そこで王国との関係が少しでも浮上すれば、攻撃と見做されうる。


 帝国だけであればなんとでもしようがあるが、周辺諸国が連合軍を編成したら、いかに勇者を抱えていようとも勝利が危うい。


「これは厄介なことになってしまったのう……」


 セルベールにとって人生最大の難局が訪れていた。

 自身が撒いたタネだったのだが——


 〜〜〜

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