第3話:隣国の皇女になぜか懐かれたんだが
500メートルほど走っただろうか。路地裏に入り、皇女は立ち止まった。
ハァハァと息を切らして、その場に座り込む。
「こんなに急いでどこまで行くんだ?」
「とにかくなるべく遠くまで——ってどうしてこんなに走ってるのに平気なんですか!?」
「あー、そういえばなんでだろ? 体力があるから?」
皇女の全速力にあわせたとはいえ、500メートルも走れば息切れくらいしてもいいはずなのだが、全然疲れていなかった。
社畜時代は慢性的な運動不足だったから体力は落ちているはずなのだが、異世界に来てから活力が漲っている。まるで、学生時代みたいな。
「凄まじい体力です……。さすがは盗賊を瞬殺するだけのことはありますね」
「あれって盗賊だったのか?」
「そうです。——遅れてしまいましたが、私を助けていただき本当にありがとうございます。申し遅れましたが、私はヴィラーズ帝国の第三皇女、アレリア・ヴィラーズです」
「なるほど、そうなのか。俺は松崎祐樹だ。商社で働いていたが、今は無職だ」
「マツサキ・ユーキ? 変わった名前ですね。ショーシャ、ムショク……詳しくは分かりませんが凄い経歴なのだと思います」
「言いにくいならユーキでいいよ。本当にどうでもいい経歴だから気にしないでくれ」
もうあの時のことは思い出したくないんだ。
「わかりました。何か事情があるのですね。それにしても私が皇女だと分かっても普通に接してくれる人は初めてです……」
「ん、不快だったか?」
「いえ、その逆です。心地良い気分です」
「しかしどうして皇女があんなところで盗賊なんかに捕まってたんだ? 護衛はどうした?」
「それはですね……色々とありまして」
アレリアは順を追って説明してくれた。
簡単に要約すると、
・アレリアが置き手紙を残して旅に出る。
・旅の途中で盗賊に拐われる。
・金持ちに売られそうになっていたところを俺に助けられる←今ここ
という状況らしい。
まったくお転婆なお嬢さんだ。
「じゃあさっさと帝国に帰らないとな」
「帝国には帰りません!」
「なんでだよ。怖かったんだろ? 皇女様がウロウロしてるとまたそのうち捕まるかもしれないぞ」
「その時はまたユーキが助けてくれますよね!」
「今回はたまたまだぞ。それにもう会うこともないだろ」
「じゃあ私はどうすれば」
「帰れよ。ずっと一緒にいると今度は俺が誘拐魔と間違えられるだろ……」
「いえいえ、誘拐魔なんて思われませんって。歳同じくらいだし友達とかカップ……に見られるくらいです!」
「友達って何言ってるんだ? 俺はアラサーのおっさんだぞ?」
「ご冗談を。15歳とかそのくらいでしょう?」
いくら日本人が若く見られやすいとしても、アラサーのおっさんがさすがに少年に見られることはないだろ……。
俺は近くにあった水溜りに近づいて自分の顔を覗き込んでみた。
「え、嘘だろ……若返ってる!?」
まるで若返ったかのような漲る活力は、あながち間違いではなかったのかもしれない。
そういえば、転移とかじゃなくて転生なんだもんな。
若返っていたとしてもおかしくはないか。
「ね?」
「ね? じゃないって。皇帝にバレたら俺殺されるんじゃないか?」
「何も対策しなければそうかもしれませんね。でも、とっておきの秘策があります」
そう言うと、アレリアは艶っぽい雰囲気を醸し出す。
うっ、かわいい。
なんでも言うことを聞いてあげたくなる……。
「既成事実を作りましょう!」
「断る!」
既成事実ってアレだろ?
結婚反対のお義父さんを黙らせる伝家の宝刀じゃないか。
いつの間にか転生一日目にして俺の人生が確定ルートに走り出しそうになっている……危なかった。
「どうしてですか? 私はやぶさかではありませんけど」
「俺がやぶさかだからだよ。出会ってほんの数十分でそうこと言うもんじゃないぞ?」
「そうですか……わかりました。では、諦めます」
肩を落として、悲しそうに唇を噛むアレリア。
でも、このまま放ってもおけないんだよな。帰れって言っても聞かないし。
「でも、アレリアが勝手についてくる分には……俺は知ったことじゃないけどな。あくまで俺はソロプレイ。たまたまいつもアレリアがいるってこともなくはない……と思う」
自分でも何言ってるのかわからない。
どんだけコミュ力ないんだ俺は。
ぱあっと目を輝かせるアレリア。
「そう、私もそれ思ってました! じゃあ勝手についていきますね!」
「お、おう……じゃあそういうことで」
皇帝にはこんな言い訳通じないんだろうけど、大人として、小さな女の子が一人で動き回るのを放っておく気にはなれない。
警察とかそういう組織もないんだろうし、なぜか役人には捕まりたくなかったみたいだし。
「そういえば、なんで役人から逃げたんだ? 連れ戻されると思ったからか?」
「ああ! 言い忘れてました。私、盗賊の人の話を聞いちゃったんですけど……。この国の王様に売られて政治の駆け引きに使われそうになってたみたいなんです。だから役人は信用できなくて」
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