第17話:劣等賢者は殲滅する

 ◇


 魔の森は村からさほど離れているわけではないのだが、門からは少し離れているので移動に二十分ほどかかった。


 入り口だけでも何匹かの魔物がウロウロしている。


「ここからは気を引き締めてね。魔物はどこから来るかわから——もう来たか!」


 ボコボコっと地面が唸り、モグラみたいな見た目の魔物が飛び出してくる。


 レオンが剣で一閃。

 あっという間に魔物は真っ二つに解体され、動かなくなった。


「こんな風に、魔物は陸から来るとは限らない。空から来たり、今みたいに地面から来ることもある。油断すれば致命傷になることもあるんだ。今までやってきた訓練とはまるで違う。アレンは上手くいかなくてショックを受けるかもしれないけど、気にすることはない。その歳ならできないのが普通なんだから」


「なるほど……でも魔物の力自体はあまり強くないみたいだね」


「個々の魔物はそうだね。でも魔物によっては集団で来ることもあるよ」


「ちょっと試したいことがあるから、ちょっとだけ止まってもいい?」


「いいけど、どうするの?」


「大量の魔物を相手にする時に備えてちょっと魔法を考えておいたんだ」


 無属性魔法『マナドレイン』

 指定した対象に対して魔力を吸い取る魔法。


 魔物の位置は気配で分かる。独特の害意のようなものを発しているので、一目で区別可能だ。

 まずは、無属性の索敵魔法『魔力探知』で魔物の居場所を正確に捕捉する。


「数は——十……百……千……万……よし」


 大量の魔物をスクリーニングする際には無防備になるのが弱点だが、数秒で終わる。

 全ての魔物の位置を確認した俺は、右手を天に突き上げ、『マナドレイン』を発動した。


 そして、回収した魔力を一気に元の個体へ戻す。


 次の瞬間。


「キェェェェェ!」


「キュイン!」


「オウフ……!」


「ガァァァ!」


 多数の呻き声とともに——


 バタバタバタバタバタバタバタバタ……!


「なっ……なんでこんな量の魔物が空から!? ……っていうか、全部死んでる!?」


「これで全部かな」


「アレン、これどういうことなの!? っていうか、よく見たら空だけじゃなくて地上でも……」


「え? 魔物の魔力を一気に刈り取ってショック死させただけだけど? 即死魔法の基本でしょ?」


 魔力がゼロになったからと言って、死ぬわけではない。

 ただし、超短期間での魔力の増減は魔力回路が弱い雑魚にとって致命傷になる。

 ある程度強い魔物には全く役に立たないのが惜しいところなのだが。


「なにを驚いてるの……? 魔法士なら誰でもできるよね」


「できないよ!? こんな頭おかしい魔法見たことない!」


 え、そうだったのか……?

 母イリスに教えてもらった即死魔法を改良して大量の魔物相手に使えるようにしただけなんだが……。


「え、じゃあどうやって大量の魔物を相手にするの……?」


「地道に何発も魔法を撃つんだよ! 仲間と協力して難所を乗り越えるのが普通。そんな一人でなんでもやっちゃう魔法士なんて……あっ、一人だけ心当たりがあるかも……。そうか、だからアレンは……」


 レオンは頭を抱えて、深くため息をついた。


「いいかい、アレン。その魔法は普通じゃない。魔法学院に入学してからも、そんな魔法を使う人はいない。常識から外れてる。分かったね?」


「分かった! ちゃんと説明してくれると助かるよ」


「良かった。じゃあ、持てるだけ魔石を回収して戻るとしよう」


「持てるだけでいいの?」


「確かに貴重な魔物も含まれてるかもしれないけど、何往復もできないからね。しばらくは魔物の数は戻らないし、少しずつ持ち帰ればいいと思う」


「そっか。じゃあとりあえず一カ所に集めておくね」


「集める……?」


 不思議そうな顔をするレオンを尻目に、俺は基礎的な風魔法と反重力魔法を発動する。

 魔物の体内から魔石だけを取り出し、空を通って俺の目の前に回収する。


 ドサドサドサドサ!


 一つ一つは小さく軽い魔石だが、これだけの数が集まるとなかなか壮観だ。

 俺の身長よりも高く積まれている。


「あわわわわ……」


 レオンは口をパクパクさせていた。


「大丈夫? 持てなさそうなら兄さんの分も空間魔法に入れて僕が持って帰るけど」


「く、空間魔法!?」


「こうやって異空間にアイテムを収納しておける魔法のことなんだけど……なんか母さんもよくわからないみたい」


 言って、俺はドサドサと魔石の山を異空間に放り込む。

 そして、別の場所から異空間を開き、魔石を取り出してみせる。


「こうすればいつでもどこでも手ぶらで大量のアイテムを持ち運べるし、便利だよ」


「なにその非常識な魔法!? もう僕にはついていけないよ……」


 すっかりレオンは落ち込んでしまった。

 もしかして俺のせいなのだろうか……。なにが悪かったのかわからないが、同じことが起こらないよう反省しないとな。


 その後、依頼の報告を終え、金貨一枚を持ち帰った。

 レオンは帰宅早々寝込んでしまった。


 まだ夕飯までには時間があるな。

 魔石も大量に手に入ったことだし、ちょっと新しい魔法の実験でもしておこうか。

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