第16話:劣等賢者はまとめて倒す
◇
翌日。
俺はさっそく兄レオンにギルドへと連れて行かれた。
どの領地にも必ずギルドは設置されているが、エルネスト領は面積が小さく財政的にも苦しい領地ということもありここ一つしかない。
しかしそのたった一つのギルドも——
「うわなんかその……趣があるというか」
「うん、正直かなりガタが来てるね」
「はっきり言うんだね」
「事実だし隠す必要もないよ。僕は長男だし、エルネスト家を継ぐ。家を継いだら、領主になる。ちゃんと現実を受け止めるべきだと思ってるよ。もっとこの領地を栄えさせるのが夢なんだ」
立派すぎる……。
前世の俺が二十歳かそこらの時はこんなに意識が高くなかった。
同世代にもこんなやつはきっといたんだろうが、遊んでばかりで堕落した生活をおくっていた。
「なにをぼうっとしてるの? さっさと入るよ」
「あ、ごめん。兄さんは凄いなって思ってさ」
「そんな大したもんじゃないよ。理想を掲げる人はいくらでもいるけど、実現できる人はほとんどいない。アレンも……わかる時がくると思う。多分ね」
冒険者ギルドの中は冒険者が一人もおらず閑散としていた。
恒例の婆さんが仕事中だというのにティータイムに興じている。
いくら辺境で暇な仕事とはいえちょっとフリーダムすぎないか……?
「婆さん、今日の依頼はなにがある?」
「ふぁー?」
「今日の依頼! なにがある?」
「あー、依頼ね。あんたら依頼受けにきたんか」
めんどくせえ……。
レオンが話をしてくれているから俺は側から見ているだけなのだが、異世界でも婆さんは婆さんなんだな。
受付の婆さんがファイルをチェックしていく。
「今日も今日とて領地は平和。たまに魔物が畑を食い荒らすみたいじゃから、十匹倒せって依頼が出てるのぅ」
「なんの魔物?」
「なんの魔物でも良い。とにかく魔物を十匹じゃ」
「雑だなぁ。まあいいや、それで報酬は?」
「金貨一枚となっておる」
「さすがに安いか。……まあ、こんなもんだよね。ありがと、じゃあその依頼を受注するよ」
婆さんが書類に受注の旨を書き込み、無事に俺たちは依頼を受注することができた。
なお、身分証やそれに準ずるものは一切見せていない。
そんなもの見せなくても、顔パスで通るのだ。……なんたって辺境だからな。
◇
それから三十分ほど急ぎ足で移動し、村の門を出た。
エルネスト領にはエルネスト村しかないので、領地を出たような感覚だったりする。
近くには弱そうな魔物がチラホラ見える。
「アレンならこの辺の魔物は難なく倒せるだろうし……まずはあのスライムを倒してみようか」
「スライムだね。わかった!」
青色のぴょこぴょこ跳ねてる弱そうな魔物がスライムだとすぐにわかった。
この魔物の属性は水。ということは、地属性の攻撃だと効率が良いはずだ。
弱い魔物だからといって、手を抜くようなことはしない。
見た目で判断した結果、痛い目にあった冒険者は星の数ほどいるらしい。
最近読んだ本にそう書いてあった。
「こんな感じで——」
地属性魔法『アース・ディザスター』。
対象の周囲に地震を発生させる攻撃魔法だ。範囲は半径十メートルに設定。
物凄い勢いでスライムが振動し、コンマ一秒ほどで生命力を刈り取った。
だが想定外だったのは——
「……嘘でしょ。もう依頼終わっちゃったよ」
範囲を少し広めにしてしまったせいで、スライムの死骸がいたるところに散らばっていた。
「え、もう終わり?」
「難なくこなすのは想定内だったから、もとより魔の森に行くつもりだよ」
「魔の森って、危険だから領民が入っちゃいけないところだよね?」
「そうだね。色々な特性の魔物がいて、頭を使わなきゃかなり大変だよ。僕も一人では行きたくない場所」
「兄さんでも……?」
「気配もなく忍び寄ってくるからね。それに、スライムが畑を荒らすとは考えられないから、魔の森のはぐれ者が村の近くまで来るんだろう。たまには掃除しておかないと領民が困る」
「なるほど……わかった! あっ、それでこのスライムはどうするの?」
「魔石だけ回収しておこう。素材は……まあスライムだしね」
討伐証明には魔石が必要になる。
どの魔物にも必ず一つ以上の魔石が埋まっているし、小さくて軽いので冒険の邪魔にならないのでギルドと冒険者双方にメリットがある。
なお回収した魔石を納品する必要はなく、冒険者のものになる。
討伐の証拠として必要なだけだからだ。
まあ、スライムの魔石を持ち帰っても邪魔なので回収してもらえた方がありがたかったりするのだが……。
レオンが慣れた手つきでスライムの魔石を回収し、全てが終わった後、魔の森へ向かった。
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