第15話:劣等賢者は将来を眺める
◇
帰宅してすぐに晩ご飯に呼ばれた。
異世界の食事は見た目こそ珍しい食材が並んでいるが、味や食感はどこかで食べたような味をしている。
もう慣れたものだが、今日はハンバーグみたいな味のやつだ。
ちなみに、今年になって兄レオンが実家に戻ってきていた。
俺が生まれた直後に王都の高等剣術学院へ進学し、その後剣術大学に入学。卒業して三年間を王国騎士団で過ごした超絶エリート。
華々しい経歴だが、実家を継ぐために領に戻ってきたらしい。
家を出て戻ってきたら赤子だった俺が十歳まで成長していたので、当たり前のことではあるのだが、かなり驚かれた。
「手紙を出して戻ってくるにしては遅かったね。どこか行ってたの?」
兄レオンはなかなか気さくな優男という感じで、よく俺に話しかけてくれる。
嫌味ばかり言ってきた前世の我が姉が酷かっただけに、ハイスペックなのに奢らないレオンを尊敬している。
剣の腕はというと、父カルクスと同等かそれ以上。経験値による差はあるので読みの部分でカルクスに負けているが、ポテンシャルはレオンの方が上な気がする。
「ちょっとそこまで。ただの散歩だよ」
「ただの散歩で道場破り?」
「ちょ、兄さんなんでそれを……!?」
「ファンゴさんの魔法道場が子供に破られたってもう噂になってるからね。しかもその足でレイハルトさんの道場に向かったって話。領内でファンゴさんに勝てる子供なんて一人しかいないし、その一人は手紙を出したきり戻ってこない。そもそも剣と魔法を両方扱える子供が他にどこにいる? 誰でもわかるでしょ?」
「…………うん」
「やっぱりね。ほぼ黒だったけど、はっきりしたよ。……父さん、母さん。どう思う?」
「ちょっと鍛えすぎちゃったかしら……?」
「アレンも才能があるってことだな。さすが我が息子だ」
母イリスと父カルクスはニコニコしながら答える。
「二人ともちょっと能天気すぎるよ。……アレンはまだ十歳だから仕方ないけど、明らかに常識と離れすぎてると思う。前に話したこと覚えてる?」
「アレンに家庭教師を付けようって話だったかしら……?」
「いやいや、飛び級で剣術大学に入れようって話だろ?」
「そんな話してないから! アレンに常識を勉強してもらうって話!」
うーん、俺のことで親子喧嘩はやめてほしいんだけどな。
「常識ならあるよ?」
「ないから言ってるんだけど!?」
あ、はい……。良い年のおっさんだし最低限の常識くらいあるつもりなんだが……異世界では認められない感じのやつなのだろうか。
「アレンは、十五歳になったら高等魔法学院か、高等剣術学院のどっちかに進むべきだと思う。剣で負けた僕が言うのは悔しいけど、アレンは魔法の方が才能ありそうだし……いや、こっちはアレンが決めればいいや。とにかく、学校に行って常識を覚えた方が良いと思う」
高等魔法学院、それに高等剣術学院。
エリートコースだし申し分ないな。まあ、合格できれば……ではあるが。
「学校に行けばファンゴさんとかレイハルトさんより強い人いる?」
「うーん、それはね……」
「いるよね! 母さん!」
「い、いるわ。……多分!」
「剣術学院に関して言えばそうだな……」
「い・る・よ・ね?」
「い、いる! おそらくな!」
ふむ、やはり領内では敵無しでも、広い世界を見れば上には上がいるということか。
兄レオンは俺の常識を心配してくれているみたいだが、それを抜きにしても更なる高みを目指すにはありな選択だ。
「でも、まだ五年後と言っても学費とか大丈夫なの? 結構高そうだけど……」
エルネスト家は貴族とは言っても、王国の外れの辺境。
そんなに金持ちというわけではない。大きな家ではあるが、それだけで家計はそこまで余裕があるというわけではない。
「レオンも特待生だったし余裕で……ふがっ!」
どういうわけか、カルクスはレオンに口を塞がれてしまう。
「頑張ってお金は貯めればいいよ。僕と一緒にちょっとした仕事をしても良い。魔法学院や剣術学院は強い人ばっかりだから、アレンに才能があっても必ず特待生になれるとは思わない方がいい。わかったね?」
「う、うん……。それで、ちょっとした仕事って?」
「治安維持のお仕事。うちの領地は冒険者が少ないから、魔物が増えてくると領民が襲われて怪我をするかもしれない。ギルドからちょっとした魔物退治の依頼を受けてお金を貯めよう。僕がついていくから安心して良い」
「魔物……! ついに実戦だね!」
「入学試験対策の意味でも実戦経験は良いし、お金も貯まる。……あと、依頼を通して常識というものに気づいてくれれば……」
「え、なんて?」
「なんでもない。早速明日から始めよう。朝のルーティーンが終わったらギルドに行くよ」
「わかった!」
これまで、魔物と戦ったことは一度もなかった。
対魔物を想定した魔法をいくつも作ってきたので、それがついに役立つ。
明日が楽しみだ。
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