第14話:劣等賢者はメンツを潰す②
◇
やってきたのは剣豪レイハルトが師範をしているという剣道場。
エルネスト領内では圧倒的な剣の腕だと評判らしい。
道場の外観は趣がある感じで、いかにもな風格があった。
扉はなぜか半開きになっており、俺を誘っているかのようだった。
ガラガラと開いて、中へ入る。
————!?
天井から、殺気を感じる。
俺は無詠唱でバリアを展開し、殺気に備えた。
ぽふっ、ぽふっ、ぱふっと手裏剣の形をした柔らかいものが落ちてくる。バリアに弾かれて次々と足元に落ちた。
触ってみると、スポンジのような材質。
どうやら横開きの扉に挟まれていたようで、入ってきたら落ちてくる仕組みになっているようだった。
いわゆる小学生が必ずやる黒板消しのアレだ。
「ほう……あれを避けるか。大したものだな」
五十歳くらいの落ち着いた雰囲気のおっさんが、俺を出迎えてくれていた。
「もしかして——」
「俺がレイハルトだ。ここの門を叩いたということは、弟子志望か。俺は滅多なことでは弟子を取らないことにしているんだが、ここをクリアする奴は見込みがある。良いだろう、試験を受ける権利をくれてやろう」
話が早いな。
領内最強の剣豪ともなれば弟子入り志望者が多いというのも頷ける。
まずはスタートラインに立つことができたみたいだ。
「よし、ならば早速始めよう。俺から剣を学びたければ、まず剣で語ってみろ!」
レイハルトはいかにも強そうな白銀の剣を鞘から抜いた。
さすがは剣豪。ピリピリとした空気感が漂っていた。
カルクスと比べると殺気がまるで違った。
剣の達人ともなれば、殺気を隠すようになるらしい。自分の実力を悟られて得することはないからだ。
だから、俺も殺気を隠すよう訓練した。
だが、レイハルトからは隠す気がまるで感じられなかった。
「つまり、俺程度は取るに足らない相手ってことか……さすがだな」
小さく呟き、家から持ってきた竹刀を構えた。
「……なんだそれは?」
レイハルトが呆れたような顔で俺の竹刀を見た。
「え? 竹刀だけど……」
「そんなもので真剣を相手にするなど……まったく、叩き折ってくれるわ!」
……何を怒ってるんだろう?
たしかに良い剣を使うに越したことはないが、弱い剣だからと言って勝てないということにはならないし、実力を測るには剣の種類は関係ない。
書道の達人も筆を選ばなかったとか聞いたことあるぞ。
「よし、先手を譲ってやろう。かかってこい」
「それはありがたいな。ご厚意に甘えさせてもらうよ」
レイハルトの流儀なのだろうか?
剣の戦いは、お互いの腹の探り合うという面がある。先手を取るか、返り討ちにするか——
それを考えなくていいというのは大サービスだ。
……しかし、隙だらけだな。
どこからでも狙ってくださいと言わんばかりの感じだ。
まさか剣豪が無策というわけではないはずなので、誘われていると考えるべきだ。
勝てるとまでは思っていなかったが、まるで勝てる気がしない。
実力では完全にレイハルトの方が上。なら、直球勝負に賭けるしかないか——。
まずは『身体強化』……そして、剣をオリハルコンを超える硬さに『硬化』。最後は、己の鍛えた技術で一気に攻め込むだけ。
「うおおお——!!」
「な、なんだその動きは……!」
レイハルトの動きは遅い。まだ余裕を残しているみたいだ。
この時点で、父カルクスよりかなり手強いということを深く理解した。カルクスなら、この時点で俺のプランを予測して動き出す頃合いだ。
それをしなくても間に合うという自信の現れだということだろう。
キン!
剣と剣がぶつかり、大きな金属音が道場内に響いた。
そして——
「え?」
レイハルトの剣は刀身がポキっと折れてしまい、そのまま天井まで飛翔。
カン!
っと、天井に折れた剣先が刺さってしまう。
「————!?」
予想外の事態が起こったことで、俺の頭が混乱していた。
受け流されると思っていたので、剣が折れるというのは完全に想定外だった。そもそも、剣豪ならもっと剣を硬く強化できるはずなのだ。
まさか……。
いや、そのまさかなのかもしれない。
さっきの魔法道場と同じパターンなんじゃないか?
「こ、降参する! 俺の負けだ! い、命だけは助けてくれぇ……!」
……予感は的中しちゃったみたいだった。
「……」
俺が剣を下ろして、礼をすると、
「い、一体それほどまでの剣術を一体どこで……。この領内で俺を超える剣士と言えば……まさかとは思うがカルクス……そう言えば、カルクス様の息子がかなり剣の腕が立つと噂で……まさか!?」
そのまさかなわけなんだが——
「……名乗るほどのもんじゃない。じゃあ、失礼したな」
剣道場を出る頃には、夕日が差していた。
午後の貴重な時間は骨折り損だった。
「……俺は今日一日何やってたんだろう」
こんなことなら、一人で鍛錬に励むか、母イリスや父カルクスと実践を想定した模擬戦をしていた方が何倍も有意義だった。
半日潰して分かったことは、この領内で一番強いのは俺の両親だったということだ。
そして、既に互角で俺の方がやや優っている。
つまり——俺はもう誰からも学ぶことはできない。
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