第18話:劣等賢者は成功する

 ◇


 異空間からさっき回収した魔石を取り出す。

 見た目は普通の石ころだが、微量の魔力を帯びているのが特徴だ。


 『魔の森』と呼ばれる場所から発掘した魔石とはいえ、所詮は弱い魔物に埋まっていたものなので、特性は大したことがない。


 付与できる特性はほとんどの魔石が一個。たまに二個付与できる当たりが混ざっているくらいで、魔石としては実用に値しないものばかりだ。


 お金がない新人冒険者ならこの中からマシな特性を選ぶが、特性の書き換えができる俺にとってはそんな面倒なことをする必要はどこにもない。


 言ってしまえばガラクタの山なのだが——


「魔力の指向性を整えて……粉砕」


 魔石が持つ魔力は歪な形をしているので、それを強引に矯正する。

 綺麗な魔力の流れになったところを、基礎的な魔法で粉砕して、粉状にした。


 それを別で用意した麻袋に入れていく。

 百個くらいの魔石を潰したところで、袋がいっぱいになったので、庭へ移動した。


「さて、上手くいくかな」


 数千年前、巧妙な錬金術士がいたらしい。

 その錬金術士は、弱い魔物から採取した魔石の形を変え、肥料として活用した。

 微量とはいえ、植物を成長させるには魔力は必要十分。


 桃栗三年柿八年と言われるくらい植物が育つのには時間がかかる。だが、錬金術士の肥料を使えばたったの一晩で実を成したという伝説は有名だ。


 もちろんこれはあくまで昔話で、現在では魔石の魔力は非常に歪で逆に植物を枯らせてしまうというのが常識だ。真偽が怪しいし、本当だとしても錬金術がなければ不可能とされている。


 しかし理論上は、これで上手くいくはずなんだが——


 庭にリンゴの種を埋めてみる。

 魔法で水を生成し、上からかける。

 最後に、1gほどの魔石の粉を振りかけてみた。


「——変化なしか」


 ダメ元でやってみたことなのでそこまでガックリはしなかった。けどやっぱりあれは伝説だったんだな。


 諦めて家屋に戻ろうとしたその時。


 ピュッ!

 ニョキニョキニョキニョキ!


「!?」


 物凄い勢いで発芽し、茎が生え、木の形となって背を伸ばしていく。

 タイムラプスを見ているかのようなスピードでリンゴの木が成長し、あっという間に真っ赤な実が出来上がった。


 さすがにちょっとばかり不気味だ……。


 リンゴを手に取り、齧ってみる。

 ジュワッと果汁が口に広がり、独特の甘さでいっぱいになった。


「美味い……!」


 今まで食べたどのリンゴよりもジューシーでめちゃくちゃ美味しかった。

 前世で食べた一箱一万円の超高級リンゴよりも余裕で美味しい。


「あれ……?」


 リンゴの美味しさに夢中で気づかなかったのだが、さっきリンゴを切り離したはずが、そこにはリンゴの姿があった。


 おかしいな。収穫したはずなんだが……。


 不審に思いながら、同じ場所からリンゴを切り取ってみる。

 すると——


 ニュッ!


 なんと、新しいリンゴがすぐに出来上がった!

 これはすごい。……もう一回収穫するとどうなるんだ?


 ニュッ!


 これも収穫すると、さすがに打ち止めになった。

 どうやら、三回は収穫できるみたいだ。


 一回の収穫で五十個収穫できるので、それが三回で百五十個。

 成長にさほどの時間はかからないのでかなりコスパが良い。

 それに、何より美味しい。


 もし、他の作物にも使えるのだとしたら——なかなか夢が広がる。


「な、何これ!?」


 寝込んでいた兄レオンが庭のリンゴの木を見て驚いていた。

 さっきまで影も形もなかった木が生えていたらそんな顔になるのも無理はない。


「これはリンゴの木だよ」


「それは見ればわかるよ!?」


「実はさっきちょっと植えたんだけどいつの間にか大きくなったんだ。ちょっとこれ食べてみて」


「大きくなった部分を聞きたいし、そもそも季節外れだし……むしゃむしゃ……んん、これは!? なんでリンゴがこんなに甘いの!?」


 エルネスト領で取れるリンゴは、不味くはないのだが普通な感じだったので、すぐに気づいたのだろう。


「魔石が早く、美味しくしてくれたんだ。説明するとちょっと長くなるけど……」


 肥料の作り方から急成長したことまで、レオンに説明した。


「信じられない……こんなの、革命が起こるよ。ここ毎年不作気味だったみたいだけど、もしこれを領地全体で使えたら、一変すると思う。王国全体の食料を全部賄えるくらいになるよ」


 それはすごいな。

 しかしそれよりも気になったのは前半部分。


「不作だったの……?」


「小麦が十分に取れてたから餓死者が出るほどじゃないけど、野菜や果物があまり出回ってなかったんだ。人が襲われてないからあまり大ごとにはならなかったけど、魔物の数はここも増えていたからね」


 そういえば、魔物が畑を荒らしてるんだっけ。

 小麦よりも野菜や果物を狙うって、魔物も選り好みしてるんだな。


「とりあえず、これはアレンが思っているよりも凄いことだよ。父さんと母さんにも伝えないと。全く、とんでもないことになりそうだ」


「ええ……? そんなに?」


 いくらなんでも十歳の子供が出来ちゃったことなのに大きく取り上げすぎじゃないか?

 ——なんて思っていたら、想像以上にヤバイことだったらしく、すぐに試験的に魔石の粉を使った栽培が開始され、すぐに領地全体に広がっていったのだった。

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