第6話:劣等賢者は剣を極める
◇
一時間ほどの昼休みを挟んで、午後は剣の時間。
休んだおかげで、魔力はそこそこ回復した。
父カルクスはノリノリなようで、竹刀をブンブンと振っている。
「おとーさま、竹刀を使うのですか?」
「初心者がいきなり真剣を扱うのは危ない。まずは安全な竹刀で剣の技術を磨いていく。剣の鍛錬とはそういうものなんだ」
「なるほど……!」
「ふっ、竹刀じゃ大したことなんてできないんだろって感想が顔に出てるぞ? 俺もその気持ちはよおーく分かる。だが、竹刀だって悪いもんじゃないぞ? ちょっと手本を見せてやろう」
竹刀をバカにしたわけじゃないのだが……。
素材的に耐久性とかの関係であまり攻撃力は出せないだろうなと思っていたのを見抜かれたということだろうか。
カルクスは竹刀を右手に持ち、左手で大岩を指差す。
「あそこに岩があるな?」
「うん、大きいのがデンって置いてある」
「あれを今から砕いて見せよう」
「ええ……?」
さすがにそれは無理だろう。
カルクスの身体より大きい岩。剣の達人が真剣で斬るというなら無理とは言わないが、カルクスが使うのは普通の竹刀。仮に一閃くらいは上手くいったとしても、砕くなんてそんな……。
俺が半信半疑で見守る中、カルクスは竹刀を両手で構え、踏み出した。
「速いっ……!」
目で追うのがギリギリというハイスピード。
竹刀が光輝き、そして剣が届く——
ドガアアアアァァァァンッ!
竹刀が大岩に届いた瞬間、剣先で大爆発が起こった。
爆風と轟音で、家がビシビシと揺れている。
文字通り、あの大きな岩が粉々になっていた。
「どうだ? 剣も悪くないもんだろう?」
「すごい……! 悪くないなんてもんじゃない! これって魔法じゃないの!?」
カルクスは嬉しそうに竹刀を撫でながら、
「それが違うんだよなぁ。これが剣技というものよ。まあ、極めるまでには俺でも十五年はかかった技だ。簡単には使えないが、アレンもきっと使えるようになるだろう。というか、俺が育てる」
「え、あれって魔法じゃないんだ!」
無詠唱ではあったが、魔力の流れははっきりと見えたし、どう見ても身体強化と物質強化、爆裂魔法辺りを使った複合魔法に見えたのだが……?
しかしカルクスの方が実力は当然上手。フェイクとかもあるんだろうし、素人がちょっと見ただけで全部が分かるわけはないか!
「ぼくもちょっとやってみたい! 向こうにある岩で試してもいい?」
「構わんぞ。好きなだけやってみると良い。あっ、反動で手首を痛めないようにだけ気をつけてな」
俺が狙う岩は、カルクスが破壊したものより一回りほど大きい。
壊せるとまでは思わないが、傷一つくらいは付けてみたい。
「じゃあ、いくよ!」
俺は、さっきのカルクスの動きを思い出す。
竹刀をこんな感じで構えて、身体強化。
勢いよく踏み込み、なるべく速いスピードで岩に近づく。
その間に、カルクスを参考に魔力を練り、流し込むことで竹刀を強化。
さっき見たのと同じように光り輝く剣の完成だ。
「え……ちょ、アレン……まさか!?」
最後に、爆裂魔法を準備する。
俺の力量では、多分この大岩を壊せるほどの魔力は足りていない。
なので、火力を底上げする方法を試してみよう。
単純な爆発ではなく、イメージするのは水素爆発。
大気中の水素と酸素だけを抽出し、急激に反応させる。そして、間髪入れずに剣を叩き込む。
竹刀の着弾による爆発が水素爆発を誘発し、火力を底上げする——
ドガガガガアアアン!
カルクスの時よりも激しい衝撃が起こった。
まるで大地震のようだ揺れだ。一歩間違えれば家屋が倒壊しそうなほどだった。
「カルクス何してるの!?」
大急ぎで庭に飛び出してきたイリスが血相を変えてカルクスを怒鳴った。
「い、いや俺は何も……」
混乱中のイリスが、俺とケルカスを何度も見た。
竹刀を持たずに腕を組むケルカス。
対して、見るも無残になった大岩の跡で竹刀を持ったままの俺。
「まさか……いえ、そんなことはさすがに……」
「そのまさかだ。……アレンは天才としか言いようがない」
硬直する二人。
父ケルカスの完コピとまではいかなかったが、工夫することでなんとか再現することに成功した。
確かに一歳児にしてはできすぎかもしれない。
「どうしたの……? おとーさまの真似しただけだよ?」
「よく聞け、アレン。これはな、剣の最終奥義だ。大人であっても誰もができるわけじゃない。……ふっ、まさかここまでの才能があるとはな。これは育て甲斐がある」
今のところはかなり優秀みたいだ。
まあ、大人の頭脳があって年相応って言われるのはショックすぎるので当然といえば当然なのだが。
それにしても、さっきのカルクスは凄かった。魔法の練度自体もそうだったが、基礎的な身体能力がまるで違う。大人と子供の違いと言うより、日々の鍛錬の賜物なのだと思う。
「もう剣に関してアレンに教えることはない。基礎体力作りと、実戦を想定した模擬戦でさらなる高みを目指す。これからは子供だとは思わない。覚悟できるか?」
「大丈夫! 頑張るよ!」
母イリスに続いて、父カルクスからも才能を認めてもらえた。
この国の貴族は領地に侵入した魔物などの外敵から領民を守るという使命がある。
それに応えるための力がある。ということは、二人とも普通の大人よりはずっと強いはずなのだ。
その二人に才能を認められたということは、かなり期待できそうだ。
ここで慢心せずに、地道に実力を磨いていくこととしよう。
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