第5話:劣等賢者は魔法を極める
◇
翌日から早速母イリスから魔法を教わり、父カルクスから剣を教わることになった。
俺の適正が分かるまでは、どちらも半分ずつ学ぶことになり、午前は魔法。午後は剣の鍛錬に励むこととなる。
辺境とはいえ貴族の家というだけのことはあり、庭はかなり広い。
魔法を学ぶにせよ、剣を学ぶにせよ、かなり環境面では恵まれていそうだ。
「じゃあ、昨日のおさらいね。火の魔法を使うには、『クリエイト・ファイヤー』と呪文を唱える。やってみなさい」
「おかーさま、どうしても呪文って使わなきゃいけないの?」
「……どういうことかしら?」
「例えば、こんな風に呪文を使わずに魔法を使っちゃダメなの?」
俺は、昨日やったように呪文を詠唱せずに、直接体内の魔力を操作し、火の魔法を使ってみた。
指先から火を灯してみた。
「呪文を使わなくても魔法は使えるし、呪文を使わない方がむしろこんな風に——」
体内を流れる魔力の流れを少し調整してみる。
すると、火が大きくなったり、小さくなったり、火力が上がったり下がったりした。
全部、俺が意識的にやったことだ。
「魔法を起動してからも色々と小回りが効いて使いやすいと思うんだ。しかも工夫すれば威力を上げて消費魔力を抑えることもできるよ!」
俺の説明を聞いて、母イリスは呆然としていた。
指先に灯る蒼い炎とマジマジと見つめ——
「アレン……それ、魔法の最終奥義よ……?」
「え……?」
最終奥義って、そんなまさか。
頭脳は大人とはいえ、全くの初心者がちょっと工夫するだけでできたぞ?
「それは無詠唱魔法と言って、お母さんでもできるようになったのは大人になってからなのよ!?」
「ええ……そうなの!?」
この歳で、大人が使うような魔法が使ってたことなのか!
「アレンが言ったように、無詠唱の方が魔法は格段に自由度が高くなるし、威力も桁違いになるわ。例えば、こんな風に」
イリスは、杖を掴んで、少し離れた場所にある大きな石を睨んだ。
子供の俺にとってはおぞましいほどの魔力の渦を感じる。
杖を石の方面に突き出し、杖の先から炎の槍が猛スピードで飛び出した。
俺は、イリスの魔法から全てを盗むつもりでその様子を凝視した。
離れた魔法は一秒に満たない時間で大きな石に衝突し、爆発を起こす。
ドゴオオオォォォォン!
と轟音が響き、家にもビシビシとかなりの揺れが伝わった。
的になった石は粉々に砕け散り、高温に曝された影響で赤く燃えていた。
「火の魔法だけじゃなくて、風魔法と光魔法と……他にもたくさんの魔法の混合……!?」
「すごいわ……アレン! この一瞬でそこまで分かるなんて。アレンはもしかすると……いえ、アレンなら絶対に私を超えてくれるわ!」
イリスは赤く燃え続ける石に超冷却した冷水をかけて、鎮火する。
ジュワッと音がして、一瞬で冷たいいつもの石へ戻った。
さっきの攻撃魔法もすごかったが、鎮火の水魔法もかなり凄いんじゃないかと思う。
これが大人の使う本物の魔法……!
両親があれだけ驚いていたから、実は今の時点でもかなり強力な魔法士になれるんじゃないかと天狗になっていた部分も正直あった。
でも、まだまだ俺には実力が足りていない。
当たり前のことではあるが、大人が使う魔法とは格が違う。
イリスはこれだけの魔法を放った後も魔力切れで倒れることなく平然としているのだ。
魔力の総量が多いことに加え、かなり効率良く魔法を発動している。
息子補正ありとはいえ、これだけすごい魔法が使えるイリスが俺の才能を認めてくれているということは、俺も成長すればこのくらい、もしくはこれ以上の魔法が使える人材になる可能性があるということ。
「おかーさまを……!? こんなにすごい魔法を使えるようになるの!?」
「ええ、もちろん。私が責任を持ってアレンを世界一の魔法士に育て上げるわ。こんなに魔法の才能があるのに剣の道に進むのは勿体ないわ! ふふ、カルクスの残念がる顔が目に浮かぶわね!」
なんだか、俺に魔法の才能があると思ったイリスはとても楽しそうだった。
なぜかカルクスに対抗意識を燃やしているらしい。
イリスのやる気がアップしてくれれば、俺への指導もより熱くなるというもの。大変になるとしても、全ての鍛錬は血肉となって一生使えるスキルになる。
イリスの期待に応えられるよう、俺もこれまで以上に気を引き締めないとな。
「アレンはもう詠唱魔法を覚える必要はないわ! しばらくは魔法のバリエーションを増やすことと、魔力の総量を増やすこと。そのための鍛錬に励んでもらうわ。かなりしんどいと思うけれど、全ての基礎になるものだから、覚悟してね」
何事も基礎が大切か。
さっきのイリスのような派手で強力な魔法を早く使えるようになりたいが、確かにまだ魔力が足りないのは事実。身体強化を使いつつ魔法の鍛錬をするとなると、かなりの魔力を消費してしまう。
バリエーションに関しても、組み合わせて使うのが前提になる以上は必要なものだ。
「わかった! どんなことでもやり遂げるよ!」
努力は、ときに才能を凌駕する。
幸い俺には才能があるらしい。……ということは、努力が伴えばどこまでいけるんだろう?
自分のことなのに他人事みたいだが、俺の将来が楽しみだ。
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