第4話:劣等賢者は勝ち取る
基礎魔法の教科書。
俺が求めていたものだったはずなのだが——
「なんだ……この低レベルな内容は」
基礎魔法の教科書なのだから、高いレベルを求めるのはお門違い。それは最もな意見だと思う。
しかしさすがにこれはない。
魔法を発動するための呪文と、イメージのコツだけが長々と書かれているのだ。
俺が自力で編み出したような魔法の作り方や、俺が想像もできないような画期的な魔法技術はこの本には書かれていなかった。
正直、拍子抜けだ。
これだけ頑張って読もうと思った魔法の教科書が、読む前段階の方が得られるものが大きかった。
というか、この本から得られるものは何もなかった——
「はぁ」
俺は、思わずため息をつく。
ベッドへ戻ろうかと思ったところ——
ガチャン。
「え……アレン? ベッドにいたはずじゃ……?」
母イリスは、俺が寝静まったかどうか確認しに来ることがある。
ベッドにいるはずの俺が、普通に椅子に座って本を読んでいればそりゃ驚くだろう。
「えっと……これはね……」
怒られるかと思い、言い訳を考えていたのだが——
「アレンすごい! もう歩けるようになったの!? 昨日までハイハイもできなかったのに!?」
「う、うん……」
どうせどこかに移動できるわけでもないのでハイハイしても無駄だと思ってしていなかっただけなのだが、ちょっと心配されていたみたいだ。
ハイハイもできない赤ちゃんが言葉を話すってよく考えなくてもなかなかヤバイな。
「おかーさま、歩けるようになったから魔法教えてくれる……?」
「魔法ねえ……どうしようかしら。アレンは魔法が好きなの?」
「剣も魔法も好き! 冒険者になればお金に困らないし、毎日イキイキ生活できるんでしょ?」
「……まあ、冒険者にも冒険者なりの苦労があるけどね。そう……アレンは冒険者になりたいの」
母イリスと俺が話し込んでいると、ガタガタと近づいてくる足音があった。
父カルクスだ。
「どうした? アレンの様子を見にいくって言ったきり帰ってこないから来ちゃったぞ。俺の息子は元気なくしてふにゃふにゃだ」
「もう! そっちは後でなんとかするから。それよりもアレンがすごいのよ!」
俺がまだ幼児だからって、子供の前でナチュラルに下ネタ言うなよな二人とも……。
「それで、何がすごいんだ?」
「ふふっ、アレンがついに歩けるようになったのよ!」
「ええ……!? 昨日までハイハイもできなかったのにか?」
「幼児の成長は早いって言うもの。こういうこともあるんじゃないかしら?」
「うーむ、レオンもなかなか早かったが、アレンはそれを超えるかもなぁ」
「ねえアレン、お父さんに歩いてるところ見せてあげて」
「これでいい?」
俺は見せ物ではないのだが……。
まあ、子供の成長を楽しむのは親の大事な権利だからな。少しくらいサービスしてもバチは当たらない。
「お、おお……! アレンが動いてる……!」
「そりゃ絵じゃないからね……」
感激するケルカスにツッコミを入れつつ、俺はベッドに腰掛けた。
さすがにそろそろ魔力切れだ。
「それでね、アレンがすぐに魔法を教えて欲しいっていうの。どうしようかしら」
「魔法か……」
カルクスは、顎に手を置いて難しい顔になった。
「アレンは魔法を勉強したいのか?」
「うん、冒険者になりたいんだ」
「冒険者なら魔法じゃなくてもいいんだぞ。例えば剣とか、剣とか、剣がある」
剣しかないじゃねーか! というのはさておき——
「魔法だけじゃなくて剣も使えるようになりたいんだ。どっちか一つになんて決められない」
「そうかそうか、なら三歳になるまでは両方学び、三歳になってからどちらかに決めれば良い。それまではどちらかといえば剣重視という感じでいこう。イリスもこれでいいな?」
「ええ、でもアレンには魔法重視の方が良いと思うわ。だってこの歳で魔法が使えるんですもの」
「いやいや、男ならやっぱり剣だろ」
「男の魔法士もいっぱいいるけど? 大体カルクスは昔から——」
と、なぜか良い感じで進んでいたのに夫婦喧嘩まで発展してしまった……。
ともあれ、明日から早速母イリスから魔法を。父カルクスから剣を教えてもらえることになった。
目標はどちらともマスターして、無敵の存在になること。
人生はスタートダッシュで八割決まると言って良い。
このまま差を広げていって、エリートコースを突き進む。
全て上手くいっている。
でも、ここで慢心せずに常に全力を出し続けるつもりだ。
これから地道な努力が必要になると思うが、今頑張っておけば良いポジションを取れる。
それまでの辛抱だ。
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