第19話 さらしものだ

 視界一面に輝く電飾に包まれて、ソイカーガは有った。

 ファーンたちのたまり場だ。

 外壁に取り付けられた、体長五メートルほどの巨大な毒蜘蛛オブジェが、来訪者を威圧している。腹の赤い模様が毒々しい。表のテラスに三十人ほどの女たちがたむろして孔雀のアンを見ている。

 入り口の前に立つアンが正面を見据えて言った。


「行くわよ」


 ここにはファーン人とファーン好きなバイオロイドしかいない。さすがに緊張した顔のアンが入って行こうとした時、ヨシを見た浅黒い顔をしたセキュリティが行く手を遮った。


「おまえはイープだろう」

「そうだ、イープ人で文句有るのか、おれは客だ」


 決死のにらみに、やがて男が折れた。

 孔雀を従え目隠しの幕をくぐる。

 クロス型のメインステージで女たちがポールを掴み、なまめかしい仕草で踊っている。目の感覚がおかしくなるような、青い蛍光色の点滅にも慣れると座る席を探した。寄り添う女たちと共に、無数の大柄な人影がうごめき、漏れてくる声が、


「YEEP」

「***Yeep。***?」

「**COPY」


 ウエイトレスさえ寄って来ようとしない店内で、ヨシは頭に羽を広げたアンと席を探し続けた。ファーン人と女たちであふれかえったこの店で、いつまで席を探し続けるのかと思い始めた時、やっと二人の女が座る場所を譲ってくれた。居場所を確保するとヨシはアンに話しかけた。


「アン、トキは」


 だが、アンが返事をする前に音楽が止み、一瞬の間が開くと、突然「WOW!」という歓声が上がった。両手をそれぞれの鎖で繋がれ、ステージに引き出されてきた一糸まとわぬ女性。両サイドから腕を掴んでいるブーツを履いた女たちは、目の周りを覆う仮面をつけ、ムチを持っている。

 黒いビキニを白い肌に食い込ませた女の口元が、不敵な笑みを浮かべる。鎖を左右のポールに高く巻き付け、女性の髪を掴むと顔を上げさせた。


「トキ」


 両手を十字架に広げた剥き出しの裸体にライトが浴びせられ、歓声がさらに高まっていく。

 さらしものだ。

 観衆の好色な視線に晒されるトキがそこにいた。

 ヨシの口から思わず声が出る。


「トキは無理矢理連れて行かれたんだ。逃げるのは当然だろう」

「そんな説明を今ここで言っても通用しないわ」


 アンが返事をしたその時だった。


「***!」


 奇声を上げて席を立ち、グラスを投げ捨てた男がいる。その丸々と肥ったファーンはシャツを脱ぎ、ステージに這い上がろうとして短い足を上げた。いつの間にかステージ前まで来ていたヨシは夢中で男のズボンをつかむと叫んだ。


「このやろう」


 酒臭い男が振り向く。


「――」

「上がって何する気だ」

「**!」

「**もくそも有るか」


 男はまた這い上がろうと腕を振り回し、もがく。


「くそ、この」

「――」

「やろー」


 男のズボンを強引に引っ張る。黒いジーンズがずりむけ、ヨシの顔の前で真っ白いケツが丸出しになった。スポットライトを浴びたステージでパンツの端を掴み、トド状態となったファーンが目をむき、


「**COPY」

「なに、なんだと! てめー、もう一回言ってみど」

「COPY、COPY、COPY」

「このやろう、むぉおおお、ただじゃあおかねえかなな」


 ズボンが膝まで下がり、

 かろうじて残ったピンクの柄パンツ、

 ちぎれんばかりの綱引き状態に満席の店内は大爆笑。

 だが茶番は強面の用心棒が現れ終わった。

 ファーンの男はしがみつくステージから引きずり下ろされ、一喝されてケツを観衆の目に晒したまましゅんとなった。

 次はステージ上のトキに声を掛けようとしたヨシの襟首が、用心棒に掴まれ!

 強引に席まで引き立てられると、椅子に突き落とされた。


「コピー野郎、たたき出されたくなかったら大人しくそこで飲んでいるんだな」


 用心棒はヨシをにらみ、離れていく。

 席を譲ってくれた、女たちの置いていったコップが倒れると、こぼれたドリンクがテーブルを伝いヨシの膝に流れ落ちていた。

 そして、陰湿なショーが始まった。

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