第15話 物の怪の素顔は意外にかわいい
中庭では建物の片側に配置された階段を上っていく。
「おっ!」
もう一段有ると思ったヨシの足が空を切る。アンに支えられて、中二階の踊り場で隠れているような店の前を通る。見張りの男がいる。外に出て他人の目に触れないように、レンタルルームとセットになって十七歳以下のマテアムを提供している店だ。テラスを兼ねた廊下では、手すりにもたれて下の中庭を見下ろしている女、メイクを直している女、なにやら口に運んでいる女、そんな女たちの間を縫うようにして三階に着く。
機関長は大きな部屋を借りた。
「さあ、皆入れ」
「皆って、あの、おれたちは別な部屋に」
いくら酔ってるとはいえ、とんでもない事になりそうだ。
「なにが別な部屋だ」
「いや、だから」
「入れ!」
いやも応もない。
「どうだ大きなベッドだ、これなら文句無いだろう」
「いや文句無いって、そんな問題じゃ」
「なに」
機関長の顔が迫ってくる。
「いえ何でもないです、これだから酒飲みは」
「何か言ったか?」
「いえおれも飲んでます、別に何にも言ってません。言ってないですよって」
「よーし、ここに乗れ」
機関長はベッドにどかっと乗り、横になると隣を叩いた。
「何をするんですか?」
「いいから乗れ」
枕もとのコンソールを操作して、ビートの利いた曲を流し大の字に寝る機関長。
「さあおまえたち、この上で踊れ」
機関長の大声が響く。
二人は笑っていたが、始めはアンがベッドに乗ってきた。グラビアはベッドサイドで身体を揺すり、くねらせ、太ももと腰にぴったり張り付いたタイトスカートの裾をたくし上げている。
ふわふわと柔らかなウオーターベッド、横たわるヨシと機関長の足の間で女たちが不安定に踊り出した。
そしてグラビアが、続いてアンが着ていた服を踊りながらじょじょに脱いでいく。
アンの肩には小さなパピヨンが、グラビアの腹にはコウモリの羽をデザインした、不思議な模様のタトゥーが彫られている。揺れ動くベッドの上で上手くボディスーツが脱げず、たびたび尻もちをつき、両足を上げてしまうグラビア嬢。
物の怪の素顔は意外にかわいい。
ついに最後の小さな布切れ一枚の姿となってしまった二人が見下ろしている。
「機関長、寝ちゃったんですか?」
いつの間にか横たわっている巨体を揺り動かすと、山が起き上がった。
「お~し、風呂に入るぞ」
ベッドから降り、のっそりとバスルームに消えていく。
「まいったな」
ヨシはひじをついて二人を見上げていた。
「もう踊らなくっていいから、ここにおいで」
音楽のボリュームを落とすと、足元で立っている二人を寝たままけだるく招いた。
アンが左側に、グラビアが右に張り付いて座った。
二人の胸のふくらみが、下からだと妙になまめかしく見えている。両手は二人の膝の上に載せてある。やがてアンが両膝をそろえたまま、ヨシのシャツのボタンを外し始め、グラビアはベルトに手を伸ばしてきた。
「ちょっと待て、あの人が心配だからな、待っていろ」
ふらつく足取りでバスルームをのぞきに行った。
「機関長、大丈夫ですか?」
返事がない。
ドアは開け放たれている。
中に入った。
「あ~あ、機関長」
服を着た巨象がバスタブの中で寝ている。お湯を出していないのは助かった。
「機関長起きて下さい、機関長」
「ん~~~~」
目を閉じ、にやにやと笑いながら牛みたいな声を出す。
「お~い、こっちに来てくれ」
二人はパンティー姿のままやって来た。
「この人をベッドに戻すからな」
指示しながら機関長をバスタブから救い出そうとした。
グラビアはバスタブの外に出た足を持ち、アンはヨシと一緒に機関長の身体を掴んだ。
「いいか、いくぞ、それ!」
だが前のめりの中腰で踏ん張りが利かない。
「こーら、笑ってないで力を出せ」
だが二人とも笑うばかりで一向に埒があかない。
無理だった。
非力なヨシと、細腕の女たちとでバスタブにすっぽりはまり込んだこの巨漢を救い出せる訳がない。
「駄目だこりゃ」
諦めて部屋に戻った。
ベッドに乗ると二人はヨシの服を追いはぎみたいに脱がしてしまった。
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