第14話 ヨシの鼻を指先で軽くつんと突いた
それにしても十八歳とは思えない見事なボディだ。
腰まで届くアフロなロングヘアー。惜しげもなくその肢体をステージでさらしているが、幼く品のいい顔がミスマッチとも言える。
「ヨシ、さっさと決めろ」
突然ヨシの方を向いた機関長、いつの間にそんなに飲んだのかもう出来上がっている。この男の飲み方は上を向き、口をじょうごのように丸く開けてどっと流し込む。
「いや、決めろって、良い子はいるんですが」
「どれだ?」
「あの、どれだって、あの子ですよ」
ヨシはステージを指さした。
「早く呼べ、行くぞ」
「え、どこへ行くんですか?」
「上だ、決まってるだろう」
ナナの三階には、ここで出来た即席のカップルが好きなだけ時間を過ごす部屋が用意されている。
「ええと、だけど、スリムな体だし、まあおしりなんか、なんというか」
「何をぐだぐだ言ってるんだ、おい持ってこい」
機関長がなにやらウエイトレスに指示する。
「いや、あの、実はトキが」
やがて目の前のテーブルにリキュールグラスが三つ並び、ピンクの液体がなみなみと注がれている。
「ほら早く飲め」
「飲めって、これ強い酒でしょう」
「いいから飲んでみろ」
機関長のぎらついた赤い目玉が迫ってくる。
こうなったら飲むしかない。思い切って一杯飲んでみた。
「旨い」
意外に甘くて飲みやすい。
へえ、これならおれにも飲める。
「機関長これは良い感じですね」
次のグラスも空にした。
「うめえ! ねえ、これは、なんですね、なんか」
「ほれ、さっさと全部飲んでしまえ」
無謀にも残りの一杯も一気に飲み干すと、グラスをテーブルに置こうとして、
「あれ、あ~~、機関長、なんか船が揺れてますよ」
「おまえが揺れてんだよ、飲んだらさっさと女を呼べ」
「おーし、あの子に声をかけてくれないか」
ウエイトレスが答える。
「何番?」
「いや、あのデニムのパンツでピ、ピンクピンクのブーツを履いた子だ」
近づいて来るところを見ても間違いない、アンと名乗ったその子は上半身と下半身の黄金比率、スタイルと顔もバランスのとれた理想形の女の子だった。
「あなたはヨシね、トキと一緒にいた人でしょ」
汗の浮かぶ顔で突然そう切り出してきた。スタッフからもらったティッシュを何度も取り替え、顔を押さえて汗をとっている。
「友達なのか?」
「仲間よ」
「君は皆と違ってデニムなんだ」
アンが何を言うのといった顔をしている。
「いや、あの、君はビキニじゃない……」
「私は私」
そう言うとヨシをキッと見つめた。遠目には気がつかなかったが薄いブルーの瞳だ。そのかわいい顔を至近距離から穴の開くほど眺める。
アンが黙ってヨシを見つめ返す。
「その青い瞳は、君の両親はひょっとすると」
「ヨシ!」
いきなり背後からはたかれた。
「はい!」
「ここの代金を払え」
「あ」
「ん?」
「はい」
アンとグラビアが私服に着換え戻って来ると、せかされるようにして店を出た。ところが、ヨシは踏み出す足が心許ない。船から下りたばかりの素人みたいに、ふわふわとなぜか地面が揺れる。
アンは明るいピンクのミニスカートを穿いている。だが、グラビア嬢の体に薄く張り付いている布切れは、淡いバイオレットカラーで形ばかりのタイトスカート。裸よりもなまめかしい体型フォルムがくっきりと浮かび上がっている。
太ももから腰にかけての悩ましいライン――
ふと、その彼女の足が止まった。
ヨシの視線を感じたのか、
ポーズをとるようにして見つめ、
「ふふっ」
ヨシの鼻を指先で軽くつんと突いた。
グラビアは意味ありげな目線を残しながら、身体を軽くひるがえしてまた機関長の後ろを歩き始めた。履いている靴は縦長のめちゃ高いワイングラス・ヒール。彼女の後ろ姿をファーンたちの目線が追っていく。
さすがスターダンサー!
改めてその下半身に目をやる。
左右に揺れるヒップ。
「スッゲー」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます