真面目に芋掘り


真面目に芋掘り

おれは真面目に芋を掘る

その表情は真剣そのもの

誰にも邪魔はされたくはなかった

こんなにもたった一つのことに夢中になったことは今まで無かった

ざくざくと土を掻き分けその奥から覗く神秘の宝石にも似た芋に目を奪われる

「わすの畑で、なんにすとるけ?」

老人がやって来た

おれの敵ではない

しつこく絡んでくるので芋を掘るのを中断し爺さんの方へと向き直った

「わすの芋を盗みにきたんか? こんの泥棒めが!」

誤解だ

そんなつもりではない

おれはただ芋を掘ることが楽しくて仕方がないだけの人間だ

取り出した芋は再び畑に戻してやろうと考えていた

だがどうやってその誤解を解けばいいのだろう?

おれは言った

「おじいさん、ぼくはあなたの孫ですよ」

「うしょつけ!」

きっっっったない唾が飛んで来た

ここにきておれの怒りの導火線に火が点いた

「………戦後の日本の復興にどれだけ携わったかは知らないがもはや生きる屍、その肌に潤い成分は皆無、お前の死、それをこの国家も望んでいる筈だ」

優生思想に則り爺さんを絞め殺した

そして思い出したようにおれは口を開いた

「土いじりっていいよなあ、人間本来の喜びを教えてくれる」

大自然から教わること

この大地が教科書

夕暮れのほのかに明るい光がおれと爺さんを優しく包み込んでいた

「さてと………埋めるか」

おれは爺さんを埋めることにしてそして埋めた


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る