第六節:怪盗

 その日は、皆狸寝入りだった。異変を感じたのは深夜零時を回ったあたりだった。異界化する感覚を検知したのである。即皆に異界耐性を付与した。


 普段使用しない武器にもカバーをかけそこにさも武器が置いてあるというように仕掛けてあるのであった。


 異界に染まった部屋に窓から怪盗が下に降りるかのように入ってくるのが分かった。自身の重力方向を異界を使って変更して、壁を地面に見立てているのであろう。


 そして怪盗は壁に横向きに降り立つ、その瞬間だった。


 私の術が炸裂する!


 チャージグラビティープラン、左横!! 


 怪盗は降り立ったはずの壁にめりこんだのであった。


 術のかかりかたは術者のランクで決まるといってもいい。


 破術を試みる怪盗ではあるが、解けないようだった。


 壁にめりこんで動けなくなっているのだ。即、私と『ゲルハート』が飛び起き、『ゲルハート』が怪盗の首元にグレートソードを突きつける。


 私は少し離れて尋問を行う体制に入った。


 『セリア』と『ウィーゼル』はまだ狸寝入りを実行中である。


 何かあった時のバックアップであるのだ。


「貴方はなぜ忍び込んだのか?」と私は極めて冷静に静かな低い声の口調で脅しをかけた。


 返礼とばかりに私を一瞬異界の炎が包むが、私はそれを破術で打ち破った。


 私は刀を抜き、怪盗の仮面に突きつけもう一度同じことを問うた。


 『ゲルハート』もさっきより深い位置で、グレートソードを突き付けている。


「あんたが王族ゆかりのものだからだ」と回答が返ってきた。


 声は若い男のものであることがうかがい知れた。


「私は王族ではない」ときっぱりいい切った。


 そして続ける「周りの者がそう呼んでいるだけだ、噂に踊らされたな。お前を官憲に突き出すことにする」といった。


「なんだと、違うのか。見逃すから見逃してくれ」と怪盗は訳の分からないことをいった。


「場の主導権イニシアチブは私たちにある。お前の言うことは支離滅裂だ」と口調を少し大きめに取った。


 次の瞬間、少し眠気を誘ったがこれも私は破術で裂いた。


「スリープ等、私には効かん」というと怪盗の仮面をかち割った。


『ゲルハート』も少し頭を振った程度で済んだようだった。


 銀髪のソコソコ顔立ちの良い若い男だった。


「クッ、殺せ」と怪盗はいった。


「殺すまでもない、相手の強さも見抜けん輩には官憲と相場が決まっている」と私がドスを効かせて低めの強い口調でそういうと、返礼でスリープをかけ返した。


「グ……」というと怪盗は眠りに落ちたようだった。


 術を若干緩めて、強化縄を荷物から取り出した。


「『ゲルハート』はそのままで維持お願い」と私はいうと、強化縄で怪盗をがんじがらめに縛りだした。


 まずは足からそして腕を前で縛り、縛った腕ごと胴体をしっかりと括り付けた。


 そして足と胴体の強化縄をしっかり結わえてきつく繋いだ。


 術を強めにかけなおすと更に壁にめりこんで動けなくなったようなので壁ごと括っておいた。


 異界魔法の術で維持しているほうの術の代わりとなる荷重を掛けるロードウェイティングを十倍で掛けた。


 そして維持しているほうの魔法を解いた。


 とりあえず仮面は元に戻して顔に巻き付けておいたのである。


 せめてもの情けと言う奴である。


 因みに荷重の魔法は十倍がけしたので次の日の昼までは解けないのである。


 こうして怪盗との攻防は済んだかに見えた。


 周囲探知魔法のレイダーを張りなおした。


 その時、壁面でまだ動いている者がいることが分かったのである。



 チャージグラビティープラン、下!!



 とそいつに掛けておいた。


 四階からの落下である。


 生きていたとしても、動けないはずである。


 打ち所が悪ければ、死んでいることであろう。


 階下で動く音がしたので、そこに向かって荷重十倍を投げかけた。


 レイダーでさっきの対象が動いていたからである。



 今度こそ、下の対象も動きを止めたのが分かった。


 レイダーに動く点は私だけである。


 『ゲルハート』は止まっているので引っかからないのである。


「大丈夫そうだが、どうしたらいい?」と『ゲルハート』に聞かれた。



「多分、大丈夫ですよ」と私がいった。


「二人組の怪盗だったようですね。下を見てこないといけませんが、ここのホールドをお願いしてもいいですか?」と私がいうと。


「オーケー分かった。ここは任された」と『ゲルハート』はいった。



 残った強化縄を持つと、『ウィーゼル』だけツンツンと突いて起こした。


「一緒に階下まで行ってくれますか?」というと。



「分かった、他に居ても厄介だしな」と『ウィーゼル』はいうと狸寝入りを『セリア』に任せて一緒に来てくれた。




 階下に行くと全身黒ずくめの怪盗の片割れがその場所から移動できずにもがいていた。


「アイツです!」というと「周囲をお任せしました、『ウィーゼル』」と護衛を『ウィーゼル』に頼むと、そいつに近づいた。


「助け!…………」そいつは即喋れなくなった。


 サイレンスの魔法が即時発動したからである。


 この術を叫んだ対象に仕向けたキーワード発動にしてあるのは、私くらいだろう。



 ナイフを持っていたが、蹴り飛ばしてからである。


 そしてそいつに、くつわを噛ませるように強化縄で頭を括ると、次に腕を後ろ手に即括りだした。


 その次は足である当然胴体も括った。


 それをなしている最中に、宿の警備員が二人ほど何事かとやってきていた。



 ランタンの光で明るくなったところで、相手の仮面をかち割った。


 金髪と銀髪になりかけた髪が特徴的な渋めの爺様が出て来た。



 すると宿の警備員がいった「マンスター侯爵!」と。


「こいつは例の怪盗の一味だぞ!! 侯爵であろうが盗みは罪だ!!」と私が大声で叫び返した。



「上に銀髪の片割れが居るが、そいつも括りつけてある! ロイヤルスイートに侵入しようとした罪と盗みの罪で官憲行きだ!!」と叫ぶと。



「その方も侯爵様の息子に違いない」と警備員がいった。



「この国では位が偉ければ何してもいいのか!?」と大声で聞くことになった。



「そ、それは」と警備員がうろたえた。



 そこに『ウィーゼル』が割り込んでくれた。


 正義の神、サリーネ神の聖印を見せつけて「捕らえて引き渡す! 邪魔をすれば同罪とみなす」といったのである。


 そして、『ウィーゼル』がそいつをひょいっと抱え上げると「部屋まで連行する、退いてもらおうか!!」というので警備員が仕方なくその場を譲るのであった。


 それに続き、私も部屋まで上がった。



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