第十四節:悪魔

 レナウン市街地の上宿でのことだった。


 夜な夜な、若い娘を攫って食す悪魔が居るという噂があるらしい、しかもこの街ではすでに三件も起きているが、対処できていないらしい。


 食事の席であるにもかかわらず、そういう噂話がただよってきた。


 人のことに思えないが、冒険者に手を出すことは無いだろうという仲間に若干の不安を覚えたが、悪魔のすることなのだ。


 何か不思議な術を使うに決まっている。


 不幸にも出会ったら、即座に全力で叩き伏せることにした。



 私には皆に隠している秘密の武器が、あるのだそれを使えば何とかなるはずである。


 アレは師匠から教わった秘儀中の秘儀だがこういう時にはそれを使ってでも生き延びねばならない、そう思ったのである。



 寝る時間になってもなぜか寝付けない、こんなことは旅をしてから初めてであった。


 夜のとばりが降りているのに、寝れないなんてことは無かったのだ。


 逆に皆は同じ部屋で寝ているのだが、起きてくる気配がなかった。


 普段は夜遅くまで魔導書を読んでいる『セリア』でも今日に限ってはぐっすりと寝静まっている。


 オカシイ、何かが違う。


 そう思ったたときであった、不意に部屋のドアが開く音がした。


 私はすぐさま、特級の刀をとり静かに「マジックソードエクストラクション」と静かに唱えた。


 闇の中に、閃光が一陣走った。


 私は無言で、その閃光を薙ぎ斬り落とした。


 それは、何かが塗られた細い針であった!


 闇の中の気配は四っつ、いずれも人ではない何かだ。


「気配を隠しきって無いぞ!」と、少し大きな声でいった。


 すると、初老の白髪が目立つ細い容姿の長身の男が初めてそこに姿を現した。


「我が主の居城に、お呼びしたく参りましたが、お断りになられるようですね」とそういった。


「行く気は無い! 悪魔の居城などに!!」とキツク大きな声を出す。


「そうやって今まで三人もあやめて来たのか!?」とさらに大きな声で叫ぶようにいうが皆起きない。


「食事に眠り薬を混入させて! 上宿が聞いてあきれる! その上、誘いといって眠り薬を仕込んだ針などでこの私をめないでいただこうか!」といい切った。


「それ以上近寄る様なら、全員全て無に消えてもらう! 異界の手アナザーハンド!」と四人とその白髪の執事とおぼしきヤツをつかみ動けなくしたつもりだった。


「なるほど、流石旦那様が、目を付けただけはある。フン!」とその執事は異界の手を振り払った、他の四人は振り払うことすらできなかったのに!


「今日はここまでで、おいとましましょう。次回は快い返事を期待していますよ」といいつつ、そいつは闇に消えた。


 流石に他の四体ごと連れっ去った手練れを、追いかける気にはならなかった。

 そんなわけで、寝ずの番を強制されてしまうのであった。


 次の日朝食の時間を大幅に過ぎて目を覚ましたパーティーが見たものは私が衰弱しかけていて、寝ていない状態だったのだ。


 『セリア』は「何かあったの?」と聞いてくれる。


 男性陣は朝食の時間を大幅に過ぎてしまったな? という会話になっていた。


 そこに私が爆弾をぶちまけた。


「昨日皆は眠り薬で眠らされてぐっすりだったのよ、私は例の悪魔の居城にお誘いを受けたけど断ったの、かなりの手練れだったわ私の異界の手を振り払ったくらいだから」といったのである。


 魔法剣くらいじゃだめだ、アレを使わないと、という思考が私の頭を巡っていた。


「昼食を食べたら少し休むといいわ。私が見ていてあげる」と『セリア』がいった。

 その通り、私の精神状態はあまり良くなかったので、そうさせてもらうことにした。


「今日は眠らないわよ!!」と『セリア』は男性陣にも声をかけた。


「まさか眠っちまうとはな今日の晩飯は外で買って来よう。宿の飯は信用できん」と『ウィーゼル』がいった。


 そして昼食になった。


 昨日の執事と思われる給仕は居なかった。


 昨日の気配でヒトでないものが、複数とその白髪の執事がかなり手練れであるということを話し部屋に帰った。


 そして『セリア』のそばで夕食まで眠るのであった。


 夕食は男性陣が、厳選して買ってきたものを食べたため、皆眠ることは無かった。


 そして夜の帳が降りた。


 昨日と同時刻にそいつは現れて、「お迎えに参上いたしました」といったのである。


 『セリア』は気が付いて居た、そいつに影が存在しないことを。


「そいつは中級クラスの悪魔よ! 気を付けて!!」と『セリア』はいった。


「流石ランカーに数えられるだけのパーティーですな、まことよろこばしい、旦那様もただ食べるだけでは満足せず、戦いを望まれているのですよ、そして食事は上物であればあるほど良い」といったのであった。


「そうは問屋がおろさねえぜ! オッサン!」と『ゲルハート』が挑発した。


「叩き返してやる」と『ウィーゼル』がいった。


「マジックソードエクストラクション」と私は最初からかけた。


「皆様を王宮にお連れしろとおおせつかっております。他愛の無い術ですが、どうぞご一緒に」というが早いか、高速詠唱で悪魔式の呪文を唱えたのである。


 その瞬間周囲の風景が変わった。


 足元の感覚も違う、転移呪文のようであった。


 そこは周りがまばゆいばかりに輝く白亜の宮殿であった。


 その玉座前の広間であった。


 玉座には三十代前半の中年の小父おじさまが、足を組んで腰かけていた。


「そのほうらが私の相手を務めるパーティーだな」とゆっくりと立ち上がった。



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