第十一節:一等船室

 私が確実に乗船したのを見た『ゲルハート』が皆を呼んだ。


 『ゲルハート』の前にクルーが一人居た、どうやら船室まで案内してくれる係のようであった。



 事実そうであった。


 一等船室の自室になる部屋の前まで案内されて、「何か質問などはありますか?」と事務的だったがちゃんと聞いてくれた。



「風呂とトイレは本当に部屋に付いているのか?」と『ウィーゼル』がいの一番に聞いた。


「はい、匂いなどはれないよう工夫をらしてありますのでご心配なく入っていただけます」とクルーが『ウィーゼル』に伝えた。



「他にはございますか?」と聞かれた。



「大丈夫だ、何とかなるだろう」と『ゲルハート』がいった。


「ではよい船旅になりますよう」といって深く一礼をすると去って行った。


 一等船室ツインは全部で十部屋ありそのうちの左舷側の二つであった。


 両舷に五部屋ずつあるのである。


 シングルももちろん同じ数用意されていた。


 それは船の案内図に載っていたので問題は無かった。


 遊行室と書かれた少し大きくとられた部屋もあるにはあったが、多分いかないだろうなと私は思った。


 因みに、一等船室以上ではルームサービスが取れるようになっていた。


 だから、食事も全て部屋で取ることが可能だった。


 前方の部屋に『ゲルハート』と『ウィーゼル』がハンドタッチをして入って行く、「じゃあ後でな」といって。


 その後方の部屋に『セリア』と私がハンドタッチして入って行った。


 部屋自体はかなり広く流石一等と呼ばせるだけはあった。


「さて荷物を一旦置いて船内を巡りましょうか」と『セリア』がいった。


 私も荷物を置き武器を一旦外しサーコートを脱いだ。


 これでどう見ても貴族の子女にしか見えなくなった。


 『セリア』もベッド脇に荷物を置いてガイドを手に持ったところだった。


 ガイドは持っていた方が良さそうであったので私も持っていくことにした。


 部屋がノックされた。


 外から『ゲルハート』の声がした。


「出航するからデッキから外を眺めてみようぜ!」と。


 『ウィーゼル』がいった「『ウィオラ』の時間かかっとるだけじゃろ」と。


 『セリア』が「出よう」と言ったので、一緒に行くことにした。


 展望デッキは前と後ろに一つずつある様であった。


 部屋を出るとオールバックに髪形を直したラフな格好の『ゲルハート』と、同じく軽装ではあるがきちんとした礼節に則った身なりの『ウィーゼル』が待ってくれていた。


 セリアは荷物を降ろしてガイドを持っただけ、私は昨日の夕方と同様の貴族の子女スタイルである。


「出航時の後方の展望デッキから見る港町ってのもオツなもんだぜ」と『ゲルハート』が言った。


 船は汽笛を三回鳴らした、それが出航の合図であった。


「急ぐぞ」と後方デッキに走って行きそうな『ゲルハート』を『ウィーゼル』が抑えた、「そんなに焦らんでも」といった。


 流石に、このパーティーの中に混じると私は明らかにまだ子供に見えてしまうのであった。


 長身で百八十五センチ台の『ゲルハート』に同じく百八十センチはあろうかという『ウィーゼル』、女性としては少し背が高めの百六十五センチ台の『セリア』に百五十七センチの私が混じるのである。



 ガタイにしても同様だった、女性として体がほぼ出来上がっている『セリア』と比較されると私はマダマダお子様に毛が生えただけであるのだから。


 男性陣は肉体的にはガッシリ型の二人であるからして。


 見栄えは凄くする良いパーティーなのであった。



 そして焦る心を押さえながら、皆で後方の展望デッキに行った。


 丁度、船は離岸して方向転換の真っ最中だった。



 ちょうどいいタイミングであった。


 後方の少し高い位置にある、展望デッキからの眺めはかなり良く、港がほぼ一望できたといっても過言では無かった。


 しかも方向転換にも引き船や押し船を必要としないらしく、ゆっくりと旋回していたのである。


 部屋は二番目にいいものであると『ゲルハート』からは聞かされていた。


 特等船室というのがあり、それは丁度このデッキの下の船長室の下になるのである。


 一等船室より上等なのは、そこだけであった。


 特等と言っても二室しか無かった。


 二等は一等の階層の一つ下の階層にちらほらと、三等はさらに二等船室より下の階層に、ひしめき合っているのであった。


 客層も様々ではあったが、皆どことなくお金持ちそうに見えた。


 後方の展望デッキにもウチのパーティーをのぞき五組くらいのまとまって行動するチームか家族が散見されたからであった。


 一見で貴族とこれ見よがしにしているものたちはおらず、雰囲気と気分的に心地よかったのはいうまでもない。


 多分特等のものたちは、出て来ていないのだろうと推測できた。


 昨日泊まった宿屋が、徐々に離れていくのが見えた。


 昨日も感慨かんがいぶかかったが、多分今日も忘れられない一日になるであろうと思った。


 そして、快速船とめい打ってある通り、徐々に静かに加速が開始されていき港から湾外へ出た。


 サライの街並みが遠ざかっていった。


 湖なので基本的に大きなうねりが無いのも特徴的であった。


 普通、海だと潮流の流れや波があるせいで、うねりが生まれるのである。


 そのように、実家の難しい本には書いてあったように思う。



 さざ波くらいしか立っていなかった。


 湖なので、当たり前といえばそうなのだが。



 海には海獣が住むと聞くことがあるが、湖にはどうなのだろうか?


 ココ、サラト湖には昔からの伝説があり、湖には一匹の竜が住んでいるという話を思い出した。


 アクアドラゴンが住んでいる、というものであった。


 人族のヴェルゼニア王と盟約を交わしたという伝説が、今も残っているのは確かであったはずである。


 どんな盟約かは知られていないので、細かいことは分からないが、竜のお祭りというものが、チトーの港や先ほど出て来たサライの港では行われるという話であったはずだった。



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